第五話

 また朝が来た。


 重いリュックを持って準備をする。やっぱり行きたくない。でも、昨日と全く同じ気持ちだろうか?


 

 学校に着く。今日の一時間目の授業は英語だった。また先生が映画を流していた。

昨日の映画の続き。ほとんどの人は見てなかったけど。


 

『一瞬を逃すな』



 やっぱり変な映画だ。意味がわからないけど、なんか忘れられない。


 考えていたら、また昨日の人と目があった。なんなんだよ本当に。でも、ちょっとその人と話したい気がした。なんだか、分かり合える気がした。


 

 「あの映画、よく分かんなかった」


 その子が私の席に来て言った。独り言かと思ったけど、明らかに私の近くで言ったから、私に話しかけたのだと思う。教室で話しかけられるってことが普段ないから、もちろん動揺。でも、


 「う、うん、よく分からなかったね」


 とりあえず、返事をした。



 そして、沈黙。私は、なんとか話題を探そうとキョロキョロする。見当たらない...早くチャイムが鳴ってほしい。この『一瞬』が過ぎ去ってほしい。普通、こういう時はどんな会話をするのだろう?でも、普通の会話を求める必要はないなと思った。だから、もう少し話してみることにした。


 「あ、あのさ、『一瞬を逃すな』って」

 「うん」

 「あれは、『今を生きろ』ってことかな」

 「どうなんだろう、なんか名言みたい」


 ちょうどチャイムが鳴った。


『今を生きろ』って、自分で言ってみたけど、本当に薄っぺらい。暑苦しい。名言はカッコ悪い。でも、頭に残る。カッコ悪いけど、嫌いじゃない。


 

 

 もうすぐ卒業か...


 ふと考える。私は一瞬を逃しているのではないか、今を生きているのだろうか。『一瞬を逃さない』とは、どういうこのなのか。




 何も手に入れられないまま、気づけば卒業式の日になっていた。

 


 


 


 



 




 



 

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