PM2:00 レン19歳
この年齢なら服のサイズも気にしなくていいし、育って行っても少しばかり見ただけじゃ分からない。せっかく女の子なんだ、可愛いスカートなんかも、はかせてみたいじゃないか……というのは完全に俺の趣味でしかないのだが。
セクサロイドに感情はない。欲望もない。はずだ。知能がある以上、何かを思ったり考えたりはしているだろうが、それらを表に出すことはない。買われた身の上だ。いつか自由になる日があればレンの考えも聞けるだろうかと思うも、あくまで妄想でしかない。
なるだけ、ひとところに落ちつかず常に動き、成長を見られないように。普通はBOTANを知ってても、ちょっかいをかけたりして来ない。が、用心に越したことはない。なにせ高級品だ。奪われないとも限らない。
まして街に出て着飾らせたりする顧客も、珍しいことだろう。自己表現しない人形を連れ歩くだけで何もしないなんて、時間の無駄だ。だが俺は、この無駄を味わいたいのだ。
街には人が溢れているが、どれも皆、他人である。知った顔などひとつもない。皆も皆を無視して歩く。知り合いが再会しているシーンなど見たことがない。知っていても顔をそむけ挨拶しない、というシーンなら見たことがある。
レンは街に何を見出すだろうか。何も見ない、見ても理解しないだろうか。ただ俺の指示を受けるだけが生きる目的だ。かげろうより儚い。子孫も何も残せないのだから。
俺はレンを映画館に連れて行った。目と耳は機能している、情報は彼女の脳に届くのだ。
でも取ってつけたようなメッセージ性のある作品は好みではないため、近い時間でチケットの買える、コメディ映画にした。「笑い」を脳に刻み込むことができるのか疑問だったからだ。
結果は、愚問だった。
そもそも感情脳まで機能しないよう抑えられているのだ、生存するだけで精一杯なセクサロイドに喜びや悲しみなんてあったら仕事にならない。だが抑えられているというだけで、機能は消失したわけじゃない。じっくり育ててやれば育つ部位もあるだろう。たった60時間しかないから、顔の筋肉を動かすことぐらいしか憶えないまま死んでいくだけだ。
赤ちゃんが笑顔になるのは、その表情が相手に望まれているためだと分かるから、らしい。嬉しくて、楽しくて笑っているわけではないそうだ。
午後5時。
22歳となった彼女が、薄闇をまとう空の下、俺に向かって微笑んでいる。
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