第5話:桜の告白
『先輩って、ゲイなんですか?』
桜から突然送られてきたストレートなメッセージに、和希は苦笑いする。しかし、それくらいストレートな方が和希にとってはありがたかった。
『違うよ』と返信すると『そうですか。良かった』と返事が返ってきた。
「……良かった?」
『良かったってどういう意味?』と和希は不信感を覚えながら返す。
桜はその返信を見て固まってしまった。
良かったというのは、性別を理由で和希の恋愛対象から外れることがないことが分かったからだ。決して、同性愛に対する嫌悪感から出た言葉では無い。しかし、それを正直に話せば自分の恋心が和希にバレてしまう。バレてしまうが、桜にとっては、同性愛者を差別する人間だと思われる方が嫌だった。桜には、自分に告白してくれた女の子の想いを冗談だろうと笑い飛ばしてしまった過去がある。桜はそんな自分をいまだに許せずにいた。
「どうせいつかは告る、どうせいつかは告る……」
そう何度も唱え、桜は意を決して送信する。
『先輩が好きやから』と。既読はすぐについたが、しばらく待っても返事は無い。これでは言葉足らずだったかも知れないと気づき、桜は付け足す。『先輩の恋人になりたいから。男が好きだったら、なれへんやん。それだけ』
そう送って、桜はすぐにスマホをベッドに伏せた。
「……言った。言ってもうた……」
桜がドキドキしながら返信を待つ一方、和希もまた、桜の返信を見て固まっていた。
和希も桜のことは好きだった。しかし、恋愛的な好意かと問われると、分からなかった。返信に迷っていると、桜からメッセージが届く『返事は急がないので』と。
「そう言われましても……」
余計に悩んでしまっていると、コンコンと部屋のドアがノックされる。返事も待たずに入ってきたのは、数学の教科書を持った、二つ下の妹の
「お兄、ここわかんないんだけど……って、どうしたの。難しい顔してスマホと睨めっこして」
「……いや。……空美ってまこちゃんと付き合ってたよな?」
「えっ。うん。付き合ってる」
「なんで?」
「えぇ? なんでって何」
「なんで付き合いたいって思ったの?」
「んー……えっ、もしかして私今、恋愛相談されてる?」
「……うん」
「えー!? なに!? お兄好きな人できたの!? 何? どんな人? えっ? てかそもそも人なの? 無機物だったら私、力になれないけど」
「人間の女の子だよ」
「同級生?」
「一個下。同じ学校の子。好きというか……よく分からないんだ。好きではあるんだけど……」
「あぁ、恋愛感情かどうかは分からないってやつね」
「うん。……中学生の頃、微妙な気持ちで付き合ったことあって……彼女は俺のこと好きでいてくれたけど、俺は全然好きになれなくて。またあんな罪悪感抱えながら恋愛するの嫌なんだ。だから……はっきりさせてから返事をしたくて」
「……ちょっと待って」
「ん?」
「えっ、なに? お兄、彼女居たことあったの?」
「中二の頃に一ヵ月だけね」
「初耳なんですけどー!」
「いやぁ……流されて付き合っちゃっただけだから話すほどじゃないと思って……あんまり良い話じゃないし」
「……まぁ良いや。私もさ、最初はまこちゃんのこと恋愛的な意味で好きだって自覚はなくてね。うみちゃんに『まこちゃんが誰かと付き合っても良いの?』って聞かれて、それは嫌だなって思って、ようやく気付いたんだ。お兄はどう? その人が他の人と付き合うこと想像して、嫌だなぁって思う?」
空美に問われて、和希は桜が自分以外の人間と付き合っている姿を想像する。相手として浮かんだ顔は、桜のことを紹介してと言っていた部活仲間の同級生。
(あいつは……やだな。付き合うならもっと誠実な人と付き合ってほしいな……一緒にいて楽しいと思える人と……)
そこまで考えて、和希は苦笑いする。
「答え出た?」
「……うん。ありがとう空美」
「どういたしまして。今度こそ、付き合ったら紹介してね」
「ん。……あ、で、どこがわかんないんだっけ」
「あ、忘れるところだった。えっとね……」
「あー。ここか。はいはい」
「ありがとー。じゃ、頑張ってねー」
「ん」
空美が居なくなったところで、和希は桜に返信を送ろうとしたが、打ち込むのをやめて電話をかけた。
「は、はい! 冬島桜です!」
「ふふ。知ってる。安藤和希です。あのね。さっきの返事なんだけど」
「わー! 待って待って! そんな急に! まだ心の準備してない!」
スマホ越しに聞こえてくる深呼吸の音に、和希はくすくすと笑う。
「……大丈夫そう?」
「……はい。大丈夫です」
「ん。じゃあ、結論から言うね」
「はい」
ふぅと一息吐き、和希は桜の告白に対する答えを告げる。
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