和希と桜

三郎

第1話:再会

 和希達が入学して一年。和希達の学年が上がると同時に入学してきた新たな一年生の中には、文化祭で和希がお茶を渡した少女——冬島ふゆしまさくらがいた。

 桜はあれから、和希のことを忘れた日は無かった。


「桜、部活何入るか決めた?」


「合唱。……なんやけど……」


「なんやけど?」


「……男子バスケ部の見学行かへん? 一緒に」


「男バス?何?狙っとる男でもおるの?」


「ちゃ……うくない……その……前に、文化祭にお茶くれたお兄さん、バスケ部らしいねん。ウチのこと覚えとるか確認して、覚えとったら、お礼だけ言いたくて」


「あぁ、例のね。うちもどんなイケメンか気になるから付き合うよ」


「……おおきに」


 不安に思いながら、桜は友人の霧島きりしま癒子ゆこと共に男子バスケ部のマネージャーとして体験入部に参加するために体育館へ向かった。


「なんだか、今年は随分とマネージャー志望の女の子多いね」


 その日のマネージャー志望の一年生は桜とその友人を含めて八人。全員女子生徒だった。


「あれ、あの子見たことある気がする」


 和希がそう呟き、桜の方を見た。目が合い、桜は慌てて目を逸らす。


「何? カズくん。あの子同中? めっちゃ可愛いじゃん紹介してよ」


「こら! そこ! 一年をナンパしようするな! あと一年、言っておくが、恋愛目当てでマネージャーやろうと思ってるならやめとけ。意外とキツいから。そんなわけで、体験入部だけど、厳しくいくからな。男目当ての女に入ってきて欲しくないから」


 そう言って桜を鋭く睨んだのはマネージャーリーダーの高柳たかやなぎあずさという三年生女子。


(うわっ、気まずっ!絶対入部せんとこ!)


(怖ぇー! 軽い気持ちで来るんじゃなかった! 今すぐ帰りてぇー!)


 桜と癒子は軽い気持ちで体験に来たことを早くも後悔していた。





 体験入部が終わり、帰ろうとしたところで桜は和希に声をかけられた。


「お疲れさま。冬島さん」


「あ、お、お疲れ様です……安藤先輩」


「どこかで見た顔だなぁってずっと考えててさ、さっき思い出したよ。去年、文化祭で会ったよね?」


「! は、はい! あの、うち、先輩にお茶もらって……あの、すみません。うち、マネージャーになりたいわけやなくて……ただ単に、先輩がうちのこと覚えとるか確かめたくて……覚えとったらお礼言いたくて。それだけなんです」


『やっぱ安藤くん目当てじゃん』と、マネージャーの先輩達が桜を睨む。


「まぁまぁ、いいじゃないですか。まだ体験なんだし、素直に話してくれたんだし。ごめんね、冬島さん。昔、マネージャーと部員の恋愛トラブルで色々あったらしくてさ、みんなそういうのに敏感なんだ。だから、悪く思わないでほしい」


「は、はい。先輩達が本気なのは伝わったんで。大丈夫です。今日はすみませんでした。ありがとうございました」


「こちらこそ、よく働いてくれてありがとう。みんなも、いつもありがとうございます」


 マネージャー達の方を向いて頭を下げる和希。


「……正直、安藤が一番部活クラッシャーだと思う」


 梓がマネージャー達呆れた顔で呟き、マネージャーや体験入学に来た一年生も含めて、その場にいた部員全員がうんうんと頷いた。


「えっ。俺はマネージャーにも部員にも手出したりしないですよ」


「自覚ねぇのが一番タチ悪いんだよ」


「来年から女子マネ取るのやめた方がいいんじゃないか? マネージャーも全員男子にするとか」


「それもそれで部員のモチベ下がるだろ」


「高柳みたいなキツい女ばっかりなら男子でも変わんねぇよぉ……」


「見た目だけは良いのにな」


「うるせぇな。男に媚びるくらいなら死んだ方がマシだわ」


「俺は高柳先輩のそういうところカッコいいなって思いますよ」


「私は安藤のそういう、少女漫画の男みたいな爽やかでキラキラしたところすっげぇ苦手。怖い」


「分かる。不気味」


「えぇ……キャプテンまで……」


 桜は気になっていた。和希に恋人は居るのだろうかと。しかし、その日は結局聞けずに1日を終えた。

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