第47話 停止!

法外ほうがいさん!」


 ……ショックでフリーズしていた俺の耳に、浅利さんのいつもの声が届いて、ふと我に返った。


「今見せた『調査報告書』は、全くのデタラメだ。 それは東矩とうがねが一番良く知っている筈だし、オレもわかっている事だ」


続けて……「『法外ほうがい かける』という人間は、オレが知っている限り最も純粋な『善人いいひと』だ。 詳しくは言えないが、その点は安心してくれ」


 ……浅利さんの、優しさの中に、勇気が込み上げてくる声が俺の耳朶に響き、胸が熱くなった。


 確かに、俺は『じゃんけん』や『人生の大勝負おおしょうぶ』で勝った事は全く無いが『くやしい』と思った事も全く無い。 むしろ『俺が負けるだけで相手が幸せになれるのなら本望ほんもう』……くらいに思っていた。


「不思議なのは、東矩とうがねが、こんな説得力の無い文書を、オレたち全員にメール添付して来た事……なんだ」


 俺を『悪人』にして『排除する』……東矩さんがとったこの行動は、どんな意味があるのだろう?


 そもそも、これは本当に東矩さんが書いた物なのか?


「……誰が作成した文書か……は、正直わからない。 ただ、東矩のパソコンの厳重な認証を擦り抜けて『作成』された文書である事は間違い無いんだ」


 ……と、その時、浅利さんに何か連絡が入ったらしい。 またかけ直してくれる……と言って、一度電話が切れた。


 ……東矩さん……初めて会った時、突然キスされてから、俺はこの人に夢中になった。 でも、それだけじゃない。 思い返せば、東矩さんは、いつも俺を心配し、支えてくれていた。


 ……その東矩さんが書いたとは、にわかに信じられない、あの『調査報告書』……。 更に、『骨導音声』や、アドレ? ナ? 何とかってホルモンの分泌量や血糖値まで、遠隔で測れるような技術を持っている組織でさえ見付け出せない東矩さんの行方……。


 しかし、こんな状況にも拘わらず、俺は何も感じ無い……。


 やはり、俺の『能力』は、じゃんけんに負ける……程度のものなのかな……。


 ……!


 浅利さんからの電話だ!

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