第29話 やった!
……グー!
「やった! 産まれて初めて勝ったあ!」
俺は、オーバーな程、喜んで飛び跳ねた!
奴は、かなり俺が負ける事に自信があったのか、呆気に取られて自分の革の手袋を見詰めている。
……『Y.T』さん……いや、
奴は何度も首を振って、気を取り直そうとしている。
俺は既に勝ち誇った気分だ! じゃんけんに勝つって……気持ちが良いもんだなあ!
『チョキだ』……はいはい!判りましたよ。
最後は俺から声をかけた
「じゃん、けん、ぽん!」
相手……グー
俺……パー!
「はい、俺の勝ち! ……さっさと
奴はポケットからニッパーを取り出して、東矩さんの美しい白く伸びやかな腕を結束していたバンドを切り、東矩さんに「申し訳ありませんでした」……と、
東矩さんは、男には一瞥も与えずに俺に駆け寄って、俺の腕に抱き付いた。
……奴は男のクセに、目に涙を
「用はお済みですか? それとも、もう一勝負します?」……と、わざと
「いいえ……結構です。 ご足労頂き、恐縮でした……」言って帽子を取り、頭を下げた。 ……頭頂部が禿げ上がっている。
俺は「失礼しまーす」と言って、奴に背中を向け、歩き出した。
東矩さんも俺の腕を力強く
……腕に鼓動が伝わって来る……怖かったのだろう……。
「……あいつが何者か……聴いても教えては貰えませんよ……ね?」
「はい……
やはり俺は、何かとんでも無い事に巻き込まれているようだ。
……それにしても……歩く度に、俺の腕に東矩さんの華奢な体格にそぐわない豊満なお胸が押し付けられて……
や、やばい! また……鼻血が……。
「と、東矩さん……」
「はい? あ! お鼻から!」
俺は上を向きながら……「す、すみません! いま、手がこうなっているので……」と言って……瞬間接着剤で『グー』のまま接着した右手と、腕時計に差した2本の割り箸を薬指と親指に絆創膏で貼って『パー』のままの形で固定した左手……を東矩さんに見せた。
俺は、東矩さんから電話が来た時点で『負ける手』が
東矩さんは、溜飲が下がった表情で、俺の鼻にティッシュを詰めてくれた。
……そのティッシュからは、鼻血が出ていても判る、素敵な香りがしていた。
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