第9話 V!

『Y.T』さんが……


法外ほうがいさん! やっぱり、このミッションは不可能です。 今から計画を変更して、強襲する方向で調整します!」


……と、涙ながらに言った。


 俺は『Y.T』さんを安心させる為に、びっりの笑顔で……


「……何を言ってるんすか〜! こちとら26年間、負け続けてるんすよ。 そんじょそこらの素人とは年季が違う。(チョキを出しながら)『Vサイン』なんて言われてますが『勝利の女神』にケツ向けられた俺にとっては『逆立ちで溺れてる人』ですよ…!」


『Y.T』さんが……


「そんな……まだリーチの段階で…。」


……と、驚きの声をあげた。


「言ったでしょ! 年季が違うんです。チョキで負け確定っす。」



……会場では初老の男性と浅利さんが同時にビンゴになり、じゃんけんでの決勝に進んだ。


『Y.T』さんが浅利さんに『パー』の指示を送る。


司会者「じゃん、けん、ぽん!」


「やった、勝ったあ~!」


……ヘッドセットから俺にも聞こえる位の、浅利さんの嬉しそうな声が響いた!



『Y.T』さんが嬉しさからか、俺に抱きついた!


 顔が真っ赤になったのを感じたが、鼻にティッシュを詰めたままなので、鼻血が滴り落ちる事はない。


 我に返って俺から離れた『Y.T』さんが深々と頭を下げ、


「失礼致しました。作戦は、無事終了です。この後、私達は敵性組織から浅利さんを保護し、お酒を安全に処分しなくてはなりません。本日はお疲れ様でした。後はご随意にお過ごし下さい。」


……と言って、トラックを出て行こうとする。


 俺が「お、俺も何か手伝いましょうか?」


……と、声をかけたが……


法外ほうがいさんには帰還命令が出ています。お引取り下さい。」


「でも、もしかしたら『敵性組織』とやらと闘うんでしょ?心配だな…。」


……『Y.T』さんは、俺に最大限の微笑みを送りながら……


「心配は無用です。私は『100%勝利する』能力者ですから」


……と言って、俺の頬にキスしてくれた!


そして……


「私を心配してくれたのは法外ほうがいさんが初めて。ありがと…。」


 呆然としている俺を残し、『Y.T』さんは姿勢を低くして素早くトラックを降りた。


 それと同時に、サイレンサー付の銃声が数発し、直後に数台のバイクや自動車が走り去る音がした!


  慌ててトラックを降りて辺りを見渡すが、暗闇に街路灯が光っているだけだった。


 その下には、ひょろっとした人の良さそうな男性が呆気にとられて立っていた。


 俺の頭に、『Y.T』さんの声が響いた


「浅利さんと接触出来たようですね。こちらも任務完了しました。基地…いや、会社に帰投します。お二人で親睦でも深めてはいかがでしょう?」


 浅利さんの頭にも、別の秘書からの音声が聴こえたようで、俺に親しげな笑顔を向けてくれた。


浅利さんが……


「作戦は法外ほうがいさんのお陰で大成功でしたね!」


「いえいえ、浅利さんのお力があったからこそ!」


「いやいや、滅相もない! 決め手は法外さんが…」


「そんな事は無いですって! あくまでも浅利さんの…」


…などという、書き込む時間が勿体無いような会話が続いた後、俺たちは場末の飲み屋街に向かった。

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