10 事態

「おぉ。咲夜。それでどうするつもりだ?」

レンヤはどこか気まずそうな顔で咲夜の顔を見て手を上げてさも気軽な感じで挨拶をした。

「さあ?まだ何も決まってなくて。なんせ前代未聞の事態ですからね。どうしていいのか私にもわからなくて困っているんですよ」

咲夜はいつもの高そうなスーツに見を包んで困ったようにそう言った。咲夜はレンヤとは違って特に変わりはなくいつも通りな様子だ。レンヤの態度を見てあえていつも通りにしているのかもしれない。俺は気にしていないからお前も気にするなと言いたいのであろう。

「妖怪を見た人間の記憶を消すか?」

「この人数です。さすがに時間が掛かりすぎます。それにどんどん広がっていっています。後手に回るだけです」

咲夜は考える事なくそう答えた。すでにそれは考えていた事なのだろう。そして、すでに却下していたということだろう。

「じゃあ、どうするんだ?」

レンヤが少しイライラしたように腕を組んで咲夜に向かって無表情な顔を向けた。

「やはり、犯人を突き止め、辞めさせるのがいいだろう。レンヤ、それはお前に頼む。あとは僕たちの得意な情報操作に印象操作。それから記憶を消すなり、改竄するなりしてこの事態の収拾を図る。それが妥当か。どの道、犯人を捕まえなければ意味がない話だ。すべてはレンヤ、お前にかかっている。頼んだぞ」

咲夜はレンヤと会話すると言うより自分と会話して一応の対応策を考えたようだ。そして、最後はレンヤの肩に乗せて二度ポンポンっと肩を叩き、事務所を去っていった。

「あいつはあいつで勝手な奴だよな。俺の事散々勝手な奴だと言っておきながら。言いたいことだけ言って去って行きやがって。俺の意見はいいのか?俺がやらないって言ったらどうするつもりなんだ」

去っていった咲夜の背を窓から見つめてレンヤはそう呟いた。怒っているような呆れているような。でもどこか嬉しそうに。

「レンヤは断る気なかったでしょ?」

レンヤの顔を見てニヤニヤして鈴がそう言った。

「はぁ?いや、まあそうだが。返事ぐらい待ってからでも遅くないだろう」

「今はそんな暇なかったんじゃないの?だってこんな時だし?」

遥もニヤニヤしながらレンヤの事を見つめてそう言った。

咲夜が信頼していてやると分かっているから返事を待たなかったというのをレンヤは分かっているから、それが本当は嬉しいのだ。

そして、その事が分かっているからそれがなんだか子供のようで鈴も遥も彼方もなんだかニヤニヤしてしまっているのだろう。

「ニヤニヤしてないでさっさと行くぞ。まったく人の顔見て何、ニヤニヤしてんだっ」

レンヤはそんな三人、一人と二匹を見て面白くなさそうにそう言って事務所を出ていった。

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