第5話 九尾の狐

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どこかの地下のようなところで身分の偉そうな高級な三つ揃いのスーツを着た40代ぐらいのおじさんと白のカッターシャツにジーパンのラフな格好の若い男が小さな明かりが一つだけ灯っている暗い中で高そうな革のソファに座っていた。

「九尾の狐。なぜお前はこの私に協力などしている?」

スーツのおじさんが隣に座る男に向かってそう聞いた。その右手には茶色い液体のお酒を持ってそれで口を湿らせて意を決したようにそう聞いたのだった。そこまでしないと聞けない事とは。白髪の混じった黒い髪をオールバックしていた。顔は爽やかで温厚そうで整った顔立ちをしていた。

「今更、何を聞くんです?」

隣に座る青年はそう言っておかしそうに笑った。彼は肩ぐらいまでの白髪を後ろで束ねていた。彼は彼でなかなかにイケメンだ。柔らかく中性的な感じのイケメン。

「俺は別にお前に協力してもらおうと思ってお前を開放したわけではない。ただ、そうすればお前が暴れてくれておもしろい事になりそうだと思っただけだ。それがまさか俺の野望にお前が協力してくれるなんて展開は予想していなかった。」

「正直、お前がいつ俺のことを裏切るのかとハラハラしている。いっその事その方が気が楽なんだが」

男は再びお酒を飲みそう言った。

「そういうことですか。理由があればあなたは安心するんですか?だったら、そうですね。僕も面白い事が好きなんですよ。あなたに付けば面白そうだった。ただ、それだけです。それ以上でもそれ以下でもありません。安心いただけましたか?」

青年は長い足を組み、笑顔でそう言った。九尾の狐が美女の姿ではなく男の姿なのだ。騙すつもりではないのだろう。権力者を騙すなら美女であったほうが都合がいいだろうしその方が簡単だろう。それが、男なのだ。もちろん、男の姿であったとしても美しいのに変わりはない。それともこの男に対してなら美女より美少年であるほうが都合がいい理由でもあるのだろうか。

「まぁ。多少は。こちらも協力してくれるのならありがたい。どうな理由であろうとも」

男は青年の金色に輝く瞳に吸い込まれそうになるのをやっとのところで踏みとどまり青年から目を逸し、どこか考えることを諦めたような口調でそう言った。

そして、男はその薄暗い部屋から出ていった。


ひとり、残った青年はとても無邪気にそう言って笑った。

「『世界征服』それがあなたの野望。実に面白い。なかなか楽しめそうですねぇ。今回のおもちゃは」

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