小百合ちゃんは縮小転移するよ!

潰れたトマト

第1話 災厄

「ーーーでは次のニュースです。5年前より世界各国で続いている大規模な失踪事件、今日も新たに数千人規模の失踪者が出ました。」


「………。」


 自宅で出勤の支度をしていると毎日必ずのように流れてくる大量失踪事件の続報。

 一向に解決の見通しが立たないこの事件、発生当初は世界中が震撼していた。

 これまでも各国で悪人による多くの失踪事件が多発していたが、これに関しては未だかつてない人智を超えた大事件だった。


 人だけではない。

 街も一緒に消えてなくなるのだ。

 多くの住民や周囲の建築物、山などの自然物に至るまで全てだ。

 とても人の成せる業じゃない。

 人類は未知の恐怖に怯えた。


 それから数年の月日が経ちーーー。

 現在ではこの大量失踪事件は日常の一部と化していた。

 人類はこの恐怖に慣れてしまっていたのだ。無理もない。対策の仕様がないのだから。

 世界規模の失踪事件の続報は最早朝のニュースの定番となり、対岸の火事も同然だった。

 人々は皆諦めの境地で日々を過ごしていた。


「さてと、そろそろ家を出るか………。」


 ガチャ


 支度を整えたサラリーマンが玄関を出る。


「………は……?」


 その場で硬直するサラリーマン。目の前に広がる謎の空間。そこはサラリーマンの知る住宅街ではなかった。


「ま、まさか………!」


 自分の住む7階建てマンション以外の見慣れた風景は何処にもない。

 そこに在るのはただひたすらにだだっ広い無機物に囲まれた空間。


 サラリーマンは悟った。

 対岸の火事ではなかった事を。

 自分が失踪事件の当事者になった事を。



 ※



「な…何が起こったの………?」


 震えながら窓際に立つひとりの中年女性。彼女はマンション5階に住む一人暮らしの独身女性だった。


 女性は毎朝家の窓から朝日を眺めるのが日課だった。

 今日も普段通りにカーテンを開けて背伸びをしながら日光を浴びるつもりだった。

 しかし窓の外はいつもの風景とは異なり、殺風景で平らな地面が地平線まで広がっていた。


「い、いや……いやよ……!」


 現実と向き合えない中年女性。

 急いで家族に連絡を取るも電波が繋がない。


「そんな………だ、誰か………!」


 不安に駆られて助けを求めに玄関を飛び出す中年女性。

 反応しないエレベーターに戸惑っていると、上の階から人が雪崩れ込んでくる。


「あ、あの!一体何があったんですか!?」


 駆け降りてきたサラリーマンの男性に尋ねる。


「決まってるだろ!例の失踪事件に巻き込まれたんだよ!あんたも早く逃げろ!」


「ひぃ……!まさか……そんな……!」


 怖じ気づく中年女性。

 だが彼女は他人に会えた事で少し平常心を取り戻した。

 こうしてはいられない。

 みんなと一緒に逃げなければ。


 玄関へ向かう集団と行動を共にした中年女性。

 みんなと行動をすれば生き残れると信じ、急いで階段を駆け降りて行った。



 ※



 マンション最上階のとある部屋では、ひとりの太った男性が懸命にパソコンの前でキーボード入力していた。

 しかしネットは切断されており、完全に孤立状態だった。


「クソ……クソ………ッ!何でだよぉッ!」


 思い通りにいかない事に腹を立て、キーボードをデスクから払い飛ばす。

 彼は自分が失踪事件に巻き込まれた事に対して怒りを覚えていた。


「クソッ!どうして俺がこんな目に合わなきゃならないんだよッ!ニートだからか!?社会のお荷物だからか!?ふざけんなッ!マジ最悪だッ!」


 脂ぎった頭髪を掻き乱しひとりで発狂する肥満男。

 今までも自分の身に振り掛ける事全てを憎んできたが、今回ばかりはご免だった。

 失踪者が救助された事は今まで一度もなかったのだ。


「くそぅ……!死んでたまるか……!」


 以前ネットで購入したモデルガンを手に部屋に立て籠る肥満男。

 彼にはこんな時でさえ外へ出る勇気はなかった。


 ズズンッ!


 突如部屋が揺れ動く。


「ひぃッ!!」


 湿った布団に身を隠す肥満男。

 恐る恐る窓の外を覗くとそこには有り得ない光景が広がっていた。


「ひひぃッ!か、か、怪獣ぅッ!!」



 窓の向こうでは避難した住民を襲う巨大な怪獣の姿があったのだ。


 ※



「ぎゃあぁぁああッ!」


「うわあぁああッ!」


 散り散りになって逃げ惑うマンションの住民たち。

 彼らが逃げる理由は明白だ。


 高さ5メートル、全長13メートルもの巨体を持つ漆黒の巨大怪獣が人々を襲い、貪り喰っているからである。

 鋭く長い6本の足は瞬時に人々との間合いを詰め、その鋭い牙で次々と人間の上半身を噛み千切ってしまう。

 1.6メートル前後の人間ではとても太刀打ちできる相手ではなかった。


 マンションの住民はひとりを除いて全員が外に飛び出しており人数は50人程だったが、あっという間にその数を減らしていった。


「このままじゃ全滅してしまう!急いでマンションに戻るんだ!」


 サラリーマンが生き残っている数人に声をかける。


「待って……待ってぇぇええッ!!」


「!!」


 サラリーマンが振り替えると、中年の女性が足を挫いて助けを求めていた。


「くっ………!」


 放っておけず助けに入るサラリーマン。


 漆黒の怪獣が二人目掛けて迫り来る。

 最早これまでと思ったその時。


 パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!


 辺りに響く高い音。

 マンションの方からだ。

 サラリーマンが目を凝らして見ると、立て籠っていた7階の住民がモデルガンのようなものでマンションに引き返す住民たちを狙い撃ちしていたのだ。


「痛ッ!な、何をするんだッ!」


「うるさいッ!こっちに戻ってくんなよッ!アイツがこっちに来ちゃうだろおぉぉおおッ!」


 BB弾を受けて怯む住民たち。改造でもしているのか規定よりも遥かに威力が高く、住民たちはまともに動けないでいた。


 ズズンッ!


 ズズンッ!


「う、うわぁッ!」


「ひぎゃあッ!」


 音に反応した怪獣がターゲットを変え、マンションへ向かう住民たちに襲いかかる。

 すぐに追いつかれ、彼らは一分も経たずに喰い殺されてしまった。

 結局、マンション住民の生き残りはサラリーマンと中年女性、デブの3人だけとなった。


「そんな………ッ!」


「いやぁ……夢なら覚めてぇ………。」


 住民たちを喰い散らかしてから後ろを振り向く怪獣。

 その視線の向こうにはサラリーマンと中年女性がいた。


「クソッ!逃げるぞッ!」


「あっ………!」


 サラリーマンが中年女性を背負い、マンションとは反対側に走り出す。

 背中を見せた獲物を追いかける怪獣。


「はぁ…はぁ…駄目だ…追いつかれる…!」


「いやぁ!来ないでぇッ!」


 人ひとりを背負っているのもあり、すぐに距離を詰められてしまうサラリーマン。

 今度こそもう駄目だと走りながら目を瞑る。


 ーーーーーその直後。



 ズッシイイイイィィイイインッ!!!




 辺り一帯が大地震に見舞われた。

 3メートル程の高さまで宙に投げ出されるサラリーマンと中年女性。

 マンションはその耐震基準を大幅に上回る揺れに耐えきれず半壊してしまった。


 辺りは大地震の後、暫しの静寂に包まれた。


「うぅ………。」


「…かはっ……!」


 地面に全身を叩きつけられ満身創痍の二人。自力では動けそうにもなかった。


「な……何が起きた……?」


「はぁ…はぁ………は………?」


 仰向けに倒れた中年女性が目を見開く。

 自分たちの周りに高さ20メートル前後の肌色の壁が現れていたのだ。

 それだけではない。

 ツンとくるような強烈な刺激臭と真夏のような気温に包まれ、一気に呼吸困難に陥る。

 そして極めつけは遥か上空に霞んで見える超巨大な少女の顔。


「きゃああぁぁぁぁあああッ!!」


 絶叫を上げた後、泡を吹いて気絶する中年女性。うつ伏せに倒れていたサラリーマンが何事かと思い、力を振り絞り仰向けになる。


「………ッ!何だあれは………!」


 唖然とする。

 先程まで暴れまわっていた怪獣とは比較にならないレベルの存在がそこに君臨していた。

 山よりも遥かに大きな巨人の女の子だ。

 サラリーマンは相次ぐ非日常的な出来事に理解が追いつかなかった。


「あの………大丈夫ですか………?」


 巨人が口を開く。

 雷鳴のような大音量が耳をつんざく。

 心配そうにこちらを見る少女の顔と配慮を感じる発言が、頭上に聳える現実離れした存在が自分たちと同じ人間である事を証明していた。

 巨人の少女が話を続ける。


「わたし望月小百合といいます。わたしの部屋に蟻がいたのでやっつけようとしたら、蟻よりもちいさなこびとさんたちがいて………わたしびっくりしちゃいました!」


 蟻………?

 蟻とは15ミリ前後の大きさしかないあの虫の事か………?

 そしてそれよりも小さなこびとたちとは、もしかして我々の事を指しているのか………?

 まだ状況が把握できない様子のサラリーマン。


「あの………急に足を下ろしちゃってすみませんでした!怪我とかしなかったですか?あっ!わたしの足怖いですよね?今どけますからね………。」


 ゴゴゴゴゴ………!!!


 巨大少女の発言の直後、周囲を囲んでいた巨大な壁が上空へと浮かび上がる。

 サラリーマンはそこで初めて壁だと思っていたものが巨大少女の足の指だった事に気付いた。


 そしてサラリーマンはもうひとつ気付いた。

 上昇を続ける超巨大な足の親指の腹の部分に、ぺちゃんこになってこびりつく漆黒の怪獣の姿があった事に。


 間違いない。

 あれは蟻だ。

 巨大少女の話した通り、あれは怪獣などではなくただのちっぽけな蟻虫だったのだ。

 そして我々は自分たちの暮らすマンションごと彼女の部屋に突如として現れていたのだ。

 蟻以下の矮小なサイズとなって。


「未だに信じがたいが……これが例の失踪事件の真相だったのか………。」


 確かにこんなに小さくなってしまったら、失踪したと思われても仕方がないだろう。しかし、何故このような見知らぬ少女の部屋に現れてしまったのか。

 そもそも何故小さくなったのか全く検討がつかなかった。


「あの……わたしで良かったらお二人を保護しましょうか?元の大きさに戻るまでの間だけでも。」


 巨大少女が我々の保護を提案してきた。確かに今の状況では致し方がない。何よりも安全確保が最優先である。


 サラリーマンが大きく手を振ると、巨大少女はニコッと笑い右手をこちらに近付けてきた。


 ゴゴゴゴゴ………!!!


 先程と同じく大気が振動する。

 彼女の広大な掌は親指と人差し指で摘まむ形へと変化し、サラリーマンと気絶した中年女性を摘まみ上げた。


「………ッ!」


 あまりの大きさにそのまま潰されてしまうのではないかと錯覚するサラリーマン。

 だが巨大少女は手慣れた様子で彼らの身体を傷つける事なく上空へと運んで行った。



 ※



「うぎぃ……はぁ…はぁ………!」


 半壊したマンションから逃げ出す肥満男。

 彼は先程の大地震によって部屋の中で跳ね回り、家具の下敷きになって意識を失ってした。

 意識を取り戻した彼が目にしたのは崩壊した自分の部屋と、ハイスペックPCやお気に入りフィギュア等の残骸だった。

 絶望した彼は改造モデルガン片手に部屋を脱出し、マンションからようやく出てきたのだ。

 彼にとっては数年振りの外出だった。


「何で俺がこんな目に…はぁ…はぁ…もうキレたぞ……みんなぶっ殺してやる……俺を蔑ろにした社会をぶっ壊してやるッ!」


 ぶつぶつと独り言を言いながらフラフラと歩く肥満男。




「あ……まだいたんだぁ………。」




 上空から大きな声が聞こえた。

 驚いた肥満男が上を見上げると、全長240メートル、幅80メートルもの巨大な素足が空を埋め尽くしていた。


「……あ……………。」


 ズッシイイィィイイイイインッ!!!


 巨大な足が振り下ろされる。

 肥満男は断末魔を上げる暇も与えられずに思い切り踏み潰され、小百合の足の裏にこびりつくちいさな染みへと姿を変えた。



 ※



 小百合の足踏みに驚くサラリーマン。

 彼と中年女性は既にテーブルの上へと移動しており、小百合が独り言を呟くと同時に足を振り下ろす光景を目にしていた。

 ここからでは角度的に見えないが、多分蟻の生き残りがいたのだろう。

 足を踏み下ろす直前、彼女の唇の口角が若干歪んで見えたのは気のせいだろうか?


「あはっ、また驚かせちゃった?ご免なさい。」


 ぺこりと謝る小百合。

 大きさ自体は脅威的だがその物腰の柔らかさからくる友好的な態度はサラリーマンを安心させていた。


「………う……ん………。」


 サラリーマンの隣で横になっていた中年女性が意識を取り戻す。


「おお!気が付いたか!」


「こ……ここは……?」


「いいか?落ち着いて聞くんだ。色々あって混乱してるだろうが、とりあえず俺たちは助かったんだ。あの大きな女の子が助けてくれたんだ。」


「大きな女の子……?……!!きゃああぁぁああッ!!」


 小百合を見た中年女性が悲鳴を上げる。


「おい落ち着け!大丈夫だ!彼女は味方だ!あの怪獣を退治してくれたんだ!」


 怯えた様子の中年女性を見てニコッと笑顔を見せる小百合。


「ほらな?あの子は敵じゃない!だから安心していいんだ!」


「………ちがう………。」


「え………?」


「あの巨人は味方じゃない………だって………ほら………。」


 中年女性が怯えながら指を指す。

 その指は小百合の背中に回した左手を指していた。


「あの巨人……怪獣を踏み潰した後に左手に持った虫メガネで私たちを見ていたの……にやついた顔で………。」


 振り返り小百合の隠された左手を見るサラリーマン。全体像は確認できないが、何か柄のようなものがはみ出しているのが見えた。


「善良な人がにやつきながら虫メガネで観察なんかする………?それ以前に何で虫メガネなんて用意してんのよ………おかしいでしょ………!」


「………ッ!」


 サラリーマンの顔が青ざめる。

 確かにそうだ。

 何故そんな用意周到な真似を?

 そもそもあの巨人は何故もっと早く助けてくれなかった?


 ………気付いていなかった?

 いや、違う。

 上から虫メガネを通して楽しんでいたんだ。

 我々がたかが蟻一匹に襲われているという滑稽な光景を。


 ゾクッ………


 寒気がした。

 死に対する恐怖ではない。

 ひとりの人間の悪意に対してだ。


 世界中で頻発している失踪事件。

 これが神々や宇宙からの脅威ではなく我々と同じ人間、それもまだ10代の少女の手によって起こされていた事実に驚愕していた。

 まるで小さな虫を弄ぶ善悪のつかない子供だ。

 世界中の人間が少女の何らかの力によって小さくされ、ここでオモチャにされて死んでいく。

 理不尽極まりない事実だった。


「どうかしました?」


 ビクッと跳ね上がるサラリーマンと中年女性。手を振り何とか平然を装うが、心なしか彼女の笑顔にうすら寒さを覚える。


「それにしても勇敢な人ですね~。自分よりも何倍も大きな蟻が襲ってきているのに、倒れた人を助けに戻るなんて。わたしそういう人大好きです。」


 笑顔で喋り続ける小百合。

 本人は気付いていないが、こっそり観察していた事を自分からバラしていた。

 それを聞いて疑惑が確信に変わる二人。

 ボロボロの身体に鞭を打ち、中年女性を背負いながらテーブルの反対側に走り出すサラリーマン。

 きっとこのままではまた新たな犠牲者が出てきてしまう。そうなる前にこの事実を世間に伝えなければ。

 サラリーマンは外部との接触を図る為、死に物狂いで走った。


「………あれぇ?急にどうしたんですかぁ………?」


 巨人の声が響き渡る。

 しかし明らかに声色が先程までと違っていた。

 暖かさが微塵も感じられなかったのだ。


 サラリーマンは力の限り走り続けた。

 その努力が報われたのだろうか。


 サラリーマンの背後から凄まじい追い風が吹いた。



 ※



「………はぁ………バレちゃったか~。」


 大きくため息をつく小百合。

 そのため息によってこびとたちはテーブルの反対側まで吹き飛ばされてしまった。


「あ、しまった!」


 慌ててテーブルの反対側に移動する小百合。こびとたちは身体を打ったのか身動きひとつしなかった。


「う~ん、途中までは上手くいってたのに何でバレたんだろ?……ま、いっか♪」


 細かい事は気にせずに中年女性を摘まみ上げる小百合。

 キーキーとちいさな声で喚いているのが聞こえる。


「今日は蟻んこ一匹とこびと数十人どちらが勝つのか実験してみたんだけど………蟻んこの圧勝だったね。こびとさんたちってホント弱すぎだよね♪蟻んこ一匹にも勝てないとか、それって生きてる意味あるのかなぁ?」


 こびとをぶらぶらと揺らしながら楽しそうに話す小百合。


「でもあなたを助けに行ったこびとはかっこよかったな~。あのこびとは今夜のメインディッシュにしよっと!あ、あなたは残念だけどもうひとつの実験に付き合ってもらうね♪」


 そう言い小百合は左手にこびとを乗せた。

 息も絶え絶えなこびとが掌の中心にちょこんと乗っている。

 ふふ。何て絶望的な状況なのだろう。

 この状況下でこのこびとは何を思っているのだろうか。

 わたしの巨大な掌に収められてどんな心境なのだろうか。

 考えるだけで興奮してしまう。


 だが今回は実験の為だ。

 楽しみは夜にとっておこう。


「こびとさん、わたしね、人を小さくさせる事ができるの。でもね?どこまで小さくできるかはまだよく解らないんだ。だからさ………。」


 小百合の顔がにやつく。

 言葉の意味を悟って更に大きな声で喚き散らすこびと。

 しかし1.6ミリのこびとがいくら叫んだところで助けなんてくる筈がなかった。


 目を瞑り念じ始める小百合。

 暫くしてから目を開けると、掌の上にこびとの姿はなかった。


「あはっ♪ちっちゃくなり過ぎて見えなくなっちゃった!でもきっとこの掌の上には居るんだろうね。」


 持ち変えた虫メガネで左手の掌を覗くが、指紋以上のものは何も見当たらなかった。


「ん~?もしかして指紋の谷間に入っちゃった?それとも小さくなり過ぎて消えちゃったのかな?」


 そう言って掌をぐっぱぐっぱさせる小百合。こうなってしまうと最早居なくなってしまったのも同然だった。


「ん~、結局よく分かんなかったなぁ………。ま、いいや♪今日は勇敢なオモチャが手に入ったからね~♪」


 踵を返してテーブルの上で倒れているこびとを指で摘まむ。まだ少しだけ元気があるようだ。


「へへっ♪今夜はあなたを使って遊ぶから楽しみにしててね!わたしといっぱいエッチな事しようね………?いや~ん恥ずかしぃ!」


 ノリノリでこびとを小瓶に入れる小百合。夜が待ちきれないようだ。



 その日の夜、ある住宅街のマンション一棟が丸ごと消え、住民全てが失踪した旨のニュースが流れた。

 しかし毎日繰り返される報道に聞き飽きた人々はまるで他人事のように聞き流していた。


 明日は我が身とも知らずに。

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