016

 教室でいつもの様に仲のいい五人で話していた、はずだった。突如光に包まれたと思えば、辺りは一転。ファンタジーの世界の城に飛ばされていた。


「成功だ……!」

「あぁ……、勇者よ!」


 柳コウは目を見開いた。《勇者》? 本当にそう言ったのか? ――と。

 周りを見ると、ちゃんと一緒に居た五人が全員ここに飛ばされている。

幼なじみの城木ルカ。仲のいい友人達である宵宮ユウカ、朝比奈カナ、夏川アツシ。

 彼らは当然だが、ノナイアスに対抗すべく召喚された勇者であった。


「すまないが、片道なのだ。君達を帰すことはできない」

「そ、そんなあ……! ユウカ、まだ彼氏も出来てなかったのにぃ……」

「そ、それどころじゃないでしょ!」


 嘆くユウカにルカがツッコミを入れる。今まで普通に暮らしてきたのに、突然こんな使命を背負わされるのだから、困惑するのも当然だ。

それに彼らはまだ高校生の17歳。これから未来が待っているというのに、死ぬやもしれぬ戦いに身を投じねばならないのだ。


「とにかく今日はもう休むと良い。明朝、詳しく話をさせて貰う」


 王はそう言うと使いのものを呼び、五人を玉座の間から退出させた。

使用人たちに先導されながら、彼らは用意された部屋へと向かう。


「ね、ねえ、つまりさ、これってあたし達イセカイテンセーしたってこと?」

「いいや。これは転生じゃなくて転移だよ、カナ」

「どっちでもいーよ! オーサマの言う通りなら、もうホントに……」


 ポロリ、と涙を零した。普段強気のカナが涙を見せるだなんて珍しいこと。天変地異と言っても過言ではない。

 ほかの女子も我慢していたのか、釣られてどんどん泣いていく。


 使用人たちはそれも気にせず部屋に誘導した。五人を半ば押し込むように閉じ込め、そそくさと出ていってしまった。


「う、うぇえぇん! さっきユウカ、彼氏とかふざけたけどぉ、おかーさんとおとーさんにもう会えないのぉお! やだよぉ!」

「ユウカァ……私だって嫌だよお……」

「ルカ……ユウカ……うぅ……」


 ベッドを占領し、ひたすら泣き続ける女子達を眺める男子二人。

だが彼らも冷静という訳ではなかった。別の意味で。

 コウはキラキラと目を輝かせ、室内をくまなく見渡している。そう彼・柳コウはこういった展開に憧れていた一種のオタクであった。


「お前らそろそろ諦めろよ。見ろよコウを」

「うっさいわね、バスケゴリラ! あいつはオタクだからなの!」


 アツシなりに女子三人を慰めたが、火に油を注いだだけであった。

だがそれでも、室内ではしゃぐコウを見て冷静になれたのか、彼女たちは泣きじゃくるのをやめていた。


「訓練や勉強している内に帰れる方法を見つけられるかも。僕らって勇者なんだろ? ある程度強い魔法でも使えるようになるんじゃないかな?」

「……そうね」

「やってやろー!」


 憶測でしかないコウの言葉だったが、もうどうにも引けないこの状況ではとっとと気持ちを切り替える他なかった。

 五人は、落ち着いたことにより突然の出来事の疲れがどっとやって来た。結局ベッドでそのまま眠ってしまった。





 翌朝、使用人たちによって彼らは起こされ、湯浴みを済ませ制服から現地の服へと着替えさせられた。

再びやってきた玉座の間は、朝日が入り込みれてキラキラと輝いていた。昨日は余裕がなかったから良く見ていなかったが、日本で普通に暮らすだけでは見れない光景が広がっている。


「ねえ見てコウ!」

「きれー……」


 それに気付いたルカ達は瞳を輝かせてあたりを見渡している。やっと余裕の出てきた若い勇者たちを見て、玉座の間に居た面々もホッとしていた。

 勇者一同が落ち着いたのをいい事に、国王は説明を始めた。数百年に一度起こる魔王の侵略、勇者のさだめ、ノナイアス。

生徒達は真剣に話を聞いていた。


「勇者と言ってもまだ力は覚醒していない。暫くは城内にて訓練がある」

「うへぇ……」

「やだー! ユウカ運動苦手ー!」

「ガンバローぜ!」


 体力馬鹿のアツシとオタク馬鹿のコウは興奮気味に喜んでいるが、女子達には不評のようだ。


「安心せい。この国や世界に関しての勉学もある」


 今度はアツシが絶望する番だった。

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