デッド・ボーダーライン ーPastー

光闇 游

0–a.

『代行者』

 世界に変わって行う人。またはモノ。


 世界そのものの意志を読み取り、歪みを正し、異常を取り除く役目があるモノは、時として自身のことを『代行者』だと名乗る。

 世界の浄化作用、その仕組みに組み込まれた、システムの一部と化したモノ。それはもはや概念であり、しかし神ではなく、鬼でもない。ただ、歪みを発生させる異常の核を、消滅させる為に存在を許される。


 尚、異常の核を取り除くことができない場合は、その異常性を『代行者』が背負い、消滅することもある。その際、異常を取り除かれた者が、次代の『代行者』となる。


×××


 雨が、降り出していた。

 空はすっかり、見知らぬ色をしている。

「――……」

 呼ぼうとして、声にならず、ただ空を眺める。黒一色ではない、黒以外の色をした、空の色。

 上に覆い被さっていたモノは、無い。

 少年は起き上がる。

「……――」

 もう一度、呼ぼうしたが、やはり声にはならなかった。

 自身の胸へ手を遣る。そこにも何も無い。

 辺りを見渡せば、自分のすぐ近く、身体からこぼれ落ちたかのような、小刀が転がっていた。

 それを見て、理解する。

「……あぁ……跡を、継いだ、のか」

 小刀を手に取る。

 その瞬間、脳に流れ込んだのは『代行者』としての知識と意味と、記憶と。

 彼女が、最期に見た光景、だった。

「……は、はは……」

 小刀を手に、ゆらりと立ち上がる。

 空から落ちてくる雫が、頬に当たって零れていく。

「本当に……つくづく、いらないな、こんな感情なんて……」


 ほんの少し、声を震わせながら。

 彼女のように、口元にだけ笑みを浮かべた。


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