まったくもってすとれすのないらぶこめ
いある
第1話 一人(三人)暮らし
親元を離れた大学生とはえてして自由なものである。無論、親のありがたみを噛み締めながら家事に勤しむことにもなるだろうが、それでも自由である。履修をいい感じに組み、起きたい時間に起床、眠りたい時間に就寝。そういう生活が本来想定されているはずである。
私立文系に進学した俺ももちろんその類に漏れることなく自堕落な生活を送る気満々でいた。ちょっと大学生活で恋人なんかができちゃったりして、そんな淡い夢を見ていた。
未だ使うのに慣れないカードキーをドアノブ上部のセンサーにかざして家のロックを解除した。
その瞬間、向こう側からドアノブが動かされ、一人でにドアが開いた。
不法侵入だろうか。思わず全身が強張る。そんな俺に構わずドアは開く。
「…どこ歩いてたの。遅いじゃん。おかえり」
「お、私に断りもなくお買い物とは見上げた根性っすね。でもま、後でご相伴にあずかるっす」
「いや、ここ俺の家なんだけど」
勝手に開いた扉の向こうで顔を覗かせたのは、まるで自分の家のように勝手知ったる振る舞いをする二人の少女。一人暮らしを始めて数日の俺より余裕でこの部屋に馴染んでいた。全然意味が分からないが。
この二人はとびきりかわいい、愛すべき、そして憎むべき俺の後輩。
それぞれ自分の髪の色と似た色合いのエプロンを身に纏い、お玉とフライ返しをそれぞれ持っている。
ここで普通の男ならガッツポーズを決めて二人にダイブするところなのだが、俺はそうではない。
何故か。
何を隠そう、俺はこの二人に高校時代という青春を蹴散らされているのだ。確かに可愛いしなんやかんやで二人のことは好きだが、恐怖とトラウマの方が遥かに色濃い、そういう存在である。
二人は呆然とする俺に構わず、とてとて、と傍に近寄ってきて腕を掴んだ。両腕で抱きしめてホールドするように。胃がもたれるほど愛情がたっぷりだった。
「なんでこいつはともかく、アタシが居ることを喜ばないの」
「どうしてこの子はともかく、私の存在に感謝しないんすか」
ほのかに火花が散る気配と折れるほどに強い過剰な抱擁。甘ったるいその空気に若干気が滅入っていた。
彼女らは俺が二年生に上がったタイミングで入学してきた一つ下の後輩。同じ文芸部だったこともあり、二人とはすぐに仲良くなったのだが…今考えれば、もっとも大きな特異点だったのだろう。未来を書き換えることができたかもしれない、そんなタイミングはあそこをおいて他にない。
尖った態度のショート黒髪少女は
ツインテールの金髪少女は
俺が高校を卒業した直後に慣れ親しんだ地元を飛び出して他県の私立大学に進学したのは、彼女たちから逃れるためであったと言ってもいい。
「アンタがアタシを捨てて他の女と仲良くしたりしたら…その、嫌だから。付いてきた」
「兄ちゃんに手を出す悪いやつらから守りに来たっす。安心していいっすよ」
両サイドから自信満々な視線と声音が熱烈に届く。
同時に、俺の描いた理想の大学生活が音を立てて崩れていく。
これは自由を求めて大学に進学した俺が、二人の歪んだ愛情を苦笑しつつ受け止めていく、まぁ大体そういう話。
もし貴方が人生に疲れているのなら、同じように疲れ果てている俺の生活を垣間見て、少しでも元気になってくれると嬉しい。
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