脱獄! リビルド勇者  ~地位も名誉もヒロインも敵地で見つけることにした~

近藤銀竹

序1   高校生、魔王になる

「魔王! 魔王! 魔王!」


 魔王を賛美する声が廊下に何度も響き渡った。

 すれ違う者共が、ぎょっとして振り返る。

 俺は慌てて、魔王と連呼していた自分の口を閉じた。


「んふふふ……」


 それでも、喜びで笑いが込み上げる衝動を飲み込むのは苦労する。

 走り出したくなるのを押さえ込まれた脚は、自然と速くなる。


 俺は!

 ついに!





 魔王になったのだ!





 劇の話だけどな!





   *





 昇降口を出ると、高校とは思えない巨大な図書館と葉桜が傾いた陽光を受けて光っているのが目に入る。


 俺――中須魁は、度重なるピンチ(テストとも言う)を乗り越え、高校二年生に進級することができた。

 なんで毎度毎度同じピンチに陥っていたのかと言えば、入学と同時に演劇部に入部し、芝居にうつつを抜かしていたからだ。

 おかげで演劇部は春の新歓公演を大成功させ、部員の大量獲得に成功していた。

 六月の本公演に向けて台本も決まった。

 俺自身も進級と共に、モブに毛が生えたような役から一転、念願の悪役を射止めていた。

 メインキャスト抜擢だよ!

 新三年生もたくさんいる中で大出世だ。筋トレや柔軟体操にも気合いが入るってもんだ。

 みんなで新しい作品を作り上げていくぞ!


 テンション高めのまま校門を出る。

 さてと、今日は『演劇ジャーナル』の発売日だったな。

 本屋に寄り道だ。

 帰り道もいつもより明るく見える。

 駅に行く道をひとつずれて、本屋のある通りへと向かう。


「?」


 ふと足を止める。

 煉瓦色のビルとガラス張りのビルとの間に、古いモルタル造りの古本屋が挟まれていた。

 煤けた看板には『古書・各種雑誌』とある。


「こんな店、あったか……?」


 俺は場違いな佇まいに惹かれ、その店にふらふらと立ち入った。




 

「こ……これは!」


 すごい!

 十年前の『演劇ジャーナル』だ!

 伝説の劇団『UNCLE』と、この前解団した『劇団シュガーケイン』の特集⁉

 ……頭に血が上ってきた。

 価格は……二千七百円。通常の三倍。

 買える……が、ちょっと財布が痛いぞ。

 ビニールも掛かっていないし、ちょっと立ち読みを……と。


 凄いぞ!

 これは凄い!

 興奮してきたぁ!

 くらくらしてきたぁ!

 役者さんの写真が近づいたり、離れたり……

 何だか、目の前の本棚も迫ってきているような……

 視界が白く光り、そして黒く染まっていき……

 俺の意識は途切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る