11、ムーンフラッグ(前編)
ムーンフラッグは月面でおこなわれいる幾つかの訓練のひとつでVRシュミレーション中心の演習だ。
月面で起きたヘリウム戦争以降、本格的な実戦はない。宇宙軍はその戦闘技術を失わないように様々な訓練を重ねている。
そのひとつがムーンフラッグであった。
月面に展開する連邦統制軍基地の多くのパイロットたちが参加し、仮想空間の中でドッグファイトを繰り広げる。
通信ネットワークが繋がっていれば所属が月面以外のパイロットたちも参加が可能となっていた。
それはキリシマなどの航宙艦に所属している艦載機隊のパイロットたちも対象だった。
その日、キリシマの艦内は大いに盛り上がっていた。
ネットワークを介して各基地のパイロットたちが仮想空間でのドッグファイトに参加するムーンフラッグにキリシマの航空隊のメンバーが参加するのだ。
参加するのはキリシマ内での選抜戦を勝ち抜いたフェルミナ・ハーカー少尉とニック・ウォーカー大尉。
娯楽の少ない航宙艦の航海のあいだに、こういったイベントは貴重だ。航空隊以外の乗組員たちも非番の者はこのイベントを視聴していた。
スタート時刻になり、ムーンフラッグが開始された。
シミュレーターに搭乗している全パイロットが出撃を開始した。
その数、全部で120機。機体モデルは艦載タイプの91式、基地からの要撃タイプの01式と2機種。各々が所属する軍の主要運用機を使う。
フェルミナとウォーカー大尉はキリシマでも使用している91式での参加だった。
通常作戦では攻撃目標があり、それを破壊、もしくは攻撃機である“キラー”を守るのが戦闘機の任務だ。
シュミレーションもそれに準じたものがメインだったが、ムーンフラッグにおいては敵味方に分かれた格闘戦闘のみの生き残り戦となる。
開始5分で次々と勝敗がついていった。航空隊や乗組員たちも早い展開に代表の二人がいつ撃墜されやしないかとハラハラしながらの視聴だった
その心配をよそにフェルミナは既に1機を撃墜していた。
(少し反応が遅い気がするけど……)
フェルミナは軽く操縦桿を動かしながらそう思った。
広域でのパイロットの参加となるがタイムラグはサーバーとなっている連邦統制軍月基地のメインコンピュータが辻褄を合わせてくれる。
シミュレーターの中のパイロットたちには常にリアルタイムとなる筈だった。だがフェルミナは僅かには違和感を感じていた。
フェルミナ・ハーカーが3機を撃墜した時、生き残った機体は半数となっていた。
参加機が半数になった時点で陣営勝敗の判定が下され、生き残った機だけで再び陣営分けとなるり、戦闘が仕切り直される。こうして最後に生き残ったのが最高のファイターパイロットとなるのだ。
シュミレーターの画面が二回目の出撃シークエンスに入る前にフェルミナは大きく深呼吸をした。
気が進まない参加だったが、実際始めてみればこれほど気持ちが高まる事は滅多にないと思えた。
今回はブルー陣営か……
新たに割り振られた編隊構成の画面の表示を見ながらふと考える。
「セイバー2」
「ウォーカー大尉?」
「今回は友軍だな。俺はランサー1だ。宜しくな」
「了解、ランサー1」
「カタイなぁ…」
「は?」
「何でもない。おっと、早速、敵機が接近だ」
「り、了解!」
映像では3機編隊が敵の編隊に向かっているところだった。
シュミレーターのすぐ後ろで配信されているムーンフラッグの様子を視聴していたキリシマ航空隊の面子が盛り上がる。
フェルミナと哨戒任務を組んでいたマック・ビレイ少尉もそのひとりだ。レーダー画面に切り替えて機体にタッチするとそのコールサインとスコアが表示された。3機編隊の敵機を順にタッチしていくとその中で一際、戦績の高いパイロットがひとりいた。
“マルス1 撃墜スコア5”
「おいおい……嘘だろ? こいつはあり得ないレベルだぜ」
マルス1のスコアを見てフェルミナに賭けていたマックは心配になっていた。
第二回目の戦闘が開始された。
「ブレイク! ブレイク!」
ウォーカー大尉の合図で散開していくフェルミナ機。それに合わせて敵機も散開していく。その中の一機がフェルミナに狙いを定めて接近してきた。
背後を取らせるわけにはいかない。
接近に気づいたフェルミナはスラスターを絶妙に操作して機体を180度旋回させる。
機体がすれ違った。
だが、相手はフェルミナ機を通り越すと似たような動きで機体を旋回させて追尾してくる。
(さすがに初回の勝ち抜いただけの事はある。今日対戦した中で一番手強い相手かもしれない……)
レーダーで追尾してくる敵機の様子を伺いながらフェルミナは思っていた。
この相手こそ、現時点でのムーンフラッグの撃墜スコアトップの“マルス1”であった。
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