7、デブリ
西暦2199年11月8日
新造のハイパー核融合炉を積んだ輸送船ダンガロイが地球圏を出発して二週間が過ぎようとしていた。
核融合技術の発明は宇宙開発に多くの影響を与えている。いまや殆どの航宙艦船の推進エンジンとして利用されていた。
膨大なエネルギーを発生させるものであったが“アビスゲート”のワームホール型ワープの状態を維持するの通常の核融合炉では物足りない。計算では恒星クラスのエネルギーが必要とされた。
そこで設計されたのがこのハイパー核融合炉である。
アビスゲート建造の中心的企業であるカサーン・ベイ社のプラント産業部門最大の事業であった。
通常航宙艦に使用される核融合パルスエンジンと比べると蟻と象程の出力差がある性能だった。
あまりにも高いエネルギー出力に危険視、または技術を得ようとする輩は多くいる。
警戒しているのは物資を略奪し、困窮した宇宙コロニーに転売する宇宙海賊。或いは、宇宙開発と進出に反対する過激な環境テロリストたち。または、かつて月面の“ヘリウム戦争”での敵対勢力“自由主義同盟”強硬派と様々だ。
故に輸送船の護衛に艦隊規模の戦力を配したのは当然といえた。
護衛の艦隊は、デアフリンガー級航宙戦艦キリシマを中心したガングート航宙駆逐艦四隻で構成されていた。
輸送艦一隻を護衛するには十分すぎる戦力である。
その日、フェルミナ・ハーカーは初めての哨戒任務についていた。
キリシマの艦長で護衛艦隊の指揮を執るキーラ・アストレイ中佐は、現在の宙域に待ち伏せやトラップの可能性があるとして哨戒を命じた。
艦載機を搭載するキリシマの優位性である。
搭載している91式艦上空間戦闘攻撃機は戦争中に開発された最後の機種だった。フェルミナの搭乗していた旧式の80式より出力も耐久性をずっと優れている。
91式のパルスエンジンのピーキーな出力もクイックな操縦性もフェルミナは気に入っていた。
後部座席にはレーダーやその他の探査装置を担当をするマック・ビレイが喋り続けていた。
マックはパイロットのひとりで腕も良いが今回は索敵管制担当だ。
ところがこの男、キリシマから発進してからの小一時間、ずっと喋りっぱなしだった。
人付き合いが苦手なフェルミナは最初のうち無理をして話を合わしていたものの、やがてそれも苦痛になり、ついには黙り込んでしまった。
それでも一方的に話続けるマックは無反応なフィルミナにも気にしていないようだった。
その長い一方的な会話の中で、ようやくまともな事を言い出す。
「航続距離が限界になる。そろそろ引き返す頃合いだな」
やっと戻れると思うのと同時に、あと半分も彼の話に付き合うのかと気が重くなる。
91式を大きく旋回させるフェルミナだったが視界に何かを捉えた。
気になり、速度を落として再び反転する。
「どうした? なぜ戻る?」
方向を変えた機体にフェルミナにマックが訊いた。
「10時方向に何か見えました」
「レーダーには何も映ってない。星の光じゃないのか?」
「確かにありました。探してみる」
「了解、任せる。レーダーと念の為、熱源探知スキャンもしてみる」
「了解」
フェルミナは、速度を緩めて目撃した宙域で目を凝らした。そこに宇宙空間に浮かぶ何かを捉えた。
「いた!」
マックはモニターを確認したが何も反応していない。
「やはり、レーダーには映っていないな。熱源スキャンも捉えてない。デブリかな」
「デブリにしてもレーダーに反応しないのはおかしいです」
「だよな。接近するなら注意しろよ」
91式がさらに距離を詰めていく。やがてマックも肉眼で相手の姿を捉えた。
「いた、本当にいた」
偵察ポッドのカメラを操作して対象物をズームアップさせる。
「停止しているブイ・衛星みたいだが……スキャンを全部試してみたい。もう少し接近できるか?」
「了解」
その時だった。正体不明のデブリから熱源反応がある。
咄嗟に操縦桿を切るフェルミナだったが熱源は主翼に直撃してしまう。
「レーザーだ。右主翼を……貫通! 出力落ちない。まだ飛べる!」
機体が大きく震動していた91式の機体をなんとか立て直すフェルミナ。
「今度はレーダーを照射してきた! ミサイルを撃ってくるぞ!」
すぐに91式はロックオンされた。レーダーが追尾してくるミサイルを探知する。
フルスロットルで推進力を上げ大きく旋回していく。ミサイルは逃げる91式の飛行をトレースして距離を詰めてくる。
ミサイルが直前まで接近した時、フェルミナは進行方向と反対側に一気に急旋回をかけた。
急激な方向転換にミサイルはついていけず、そのまま遥か彼方に直進していった。ミサイルの探知装置が91式を見失ったのだ。
「
フェルミナは、デブリに機首を向けるとミサイルの安全装置を外した。しかしデブリはレーダーには映っていない。何かのステルス処置を施しているようだ。フェルミナは攻撃をミサイルから機関砲に切り替えると目視で狙いをつけた。
レーザー攻撃を受けた距離は把握している。その前に撃つ!
フェルミナは覚悟を決めた。
照準装置のAIが出してる目安ではない。いわゆる勘だった。
フェルミナは瞬きもせずにトリガーをひいた!
連続して放たれる20ミリ粒子弾がデブリに直撃した。
撃たれたデブリは大爆発を起こした。その大きさからは考えられない規模の爆発だった。
爆発の破片に巻き込まれないようにフェルミナは全速力で宙域から離れていく。
爆発の影響下から離れた距離でようやく速度を落とした。
「トラップだ。あれには何か仕掛けられていたな」
マックが言った。
確かに爆弾規模の爆発だった。何者かが護衛艦隊の進行方向を知っていて罠を仕掛けたのだ。
一体誰が……?
フェルミナは、小さくなっていく爆発の光を確認すると機首を護衛艦隊に向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます