【本橋 荊/『嵐』・6】
「じゃあ、わたしは寝に行くから……」
畑百合。
意思を見せず、そのくせ私に付き従うことを選んだ女。
不気味だった。
「待て」
私は彼女を追いかけた。放っておくと、厄介な気がする。
「あんたはどうして、私らに付き合う? 秋元メルが気に食わんか?」
彼女と秋元メルに関係があるようには思えなかった。
「……」
「それとも、木田センに復讐したいか?」
私は畑の背中に問いを投げる。畑はそれまでの怯えた表情を一変させた。
その表情は、なんだろう。
畏怖と、恋する乙女の蕩けた眼差し。
混ざり合わないはずのものがマーブル状になる。
儚い印象の少女には似つかわしくない。
熟れて堕ちる寸前、際限なく虫を吸い寄せる果実の臭いがした。
「わからない。でも、泣いてぐちゃぐちゃの顔は見てみたい」
その短い言葉に、明言しがたい木田への想いが集約されているようだった。
「もし木田が嫌なら、どうして逃げようとしない?」
「逃げても辛いだけ。わたしはきっと、滅びたいんだと思う」
「……」
「むちゃくちゃにされて、無くなりたい」
「死にたい、のとは違うか?」
畑百合のペースに呑まれている。思わぬ展開。警戒が甘かったか。
「……わからない。死にたいとは思わないけど、一緒かもしれない。死なないと、いなくなれないから」
「悲劇のヒロインやな」
「本橋さんは、男の人としたことある?」
「……」
ない、な。考えたこともなかった。
「セックスは、小さな死だって、聞いたことがある。繁殖は、自分自身の死を意味するから」
子孫を残すということは、自分が死ぬ前提に行われることだ。
「もしかしたら、本橋さんも求めているのかもしれない。死への欲動。タナトス」
人間は、死を――滅びを望んでいる?
私も、暴力で滅びようとしているのだろうか。
私が望んだぁることは、そんなことなんか?
それこそ、わからない。
迷うな。
私は進む。
イバラの園を、怒りで燃やし尽くせ。
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