第75話 不意打ち

 母さんに迷惑は掛けたくない。


 停学中、昼飯を作ってくれると言った母さん、でもそれを俺は断っていた。自分のせいで母さんの仕事を増やすわけにはいかないから、ただでさえパートが忙しいのにバカな息子の為に労力を使わせたくない。


 俺は食パンを見つけ、袋から一枚を取り出してそのま何も付けずに貪るように食べ、牛乳で胃に流し込んだ。


 午前中に集中し過ぎたのか、俺は食事をした事もあり眠くなり自室に戻ってベッドに仰向けに寝転がった。スマホをダラダラと眺め、何度も眠くなって顔にスマホを落とし、気が付くと俺は寝落ちしていた。



 ◇     ◇     ◇



 何かが鳴っている、鐘? うっすらと瞼を開けた俺は時計を眺めた、ゲッ! もう四時前じゃねえか! だらけ過ぎだ、ヤバい、バイトがっ! いや、今日は休みだ……マジで助かった。


 鳴っているのは居間のインターフォンだ、宅配便でも来たのか? 荷物の受け取りぐらいはしておかないと家族にどやされかねない。


 俺は急いで階段を降りて靴下のまま玄関ドアを開けた。


「大神、元気にしてた?」


「季三月⁉」


「連絡したのに全然見てくれないんだもん、でも自宅謹慎中だから絶対居ると思って来ちゃった」


 フワフワなフリルの付いた黒い膝上丈のスカートを履いて薄い上着を羽織った季三月の姿に俺は一瞬意味が分からなくなった。


「あれ? 制服は? 今日は学校だろ?」


「うん、着替えたんだ……」


 季三月は身体を捻って背中のリュックを俺に見せた。


「お家に入ってもいい?」


「え? いいけど……」


 いや、ちょっと待てよ。部屋綺麗だったっけ?


「ちょ、待ってて。部屋片づけるから」


「いいよ、そのままで。私が片付けてあげる」


 季三月は玄関の中に入り、「お邪魔します」と少し声を張った。


「季三月、今誰もいないんだ」


「え? そうなの?」


 二人の間に妙な沈黙が流れた、お互いが二人きりだと認識し、意識しているんだろう。


「大神、お、お湯沸かしてくれる?」


「ああ、オーケー。お茶淹れるのか?」


「うん、ティーポットあったら貸して?」


「お湯湧いたら持ってくから、上がっててくれ」


「じゃ、待ってるね」


 ニッコリと笑った季三月はトントンと階段を昇って行った。


 さっきから心臓のドキドキが収まらない、いきなりの季三月の訪問に俺は平常心を失っている。


 俺はヤカンに多めの水を入れ火にかけ、その間にティーポットを探した。

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