第41話 謝罪

 季三月は救急車に乗せられた。彼女はまだ衝動的な行動を取るかもしれないので病院で保護され、経過観察をされるらしい。


 入院なんて事になったら留年は確実だが、運がいいというべきか分からないが来週から夏休みだから何とかなるだろう。


 俺は脱力して、高校の玄関前の三段しか無い低い階段に腰を下ろした。


 一緒に帰っていた中倉も校舎に戻って来ていて外で俺を発見するなり聞いた。


「大変だったな大神、季三月の様子はどうなんだ?」


 近寄って来た中倉を見上げ、俺は言った。


「だいぶ落ち着いたみたいだ。だから、もう大丈夫だと思う」


 俺はまだ落ち着いてないけどな、まだ心臓がドキドキしやがる。


「しかし何だってあんな事を……プールで見せた顔は偽りなのか?」


「季三月の闇は深いって事だよ、だからあいつの力になりたい」


「そうだな。……それはそうと、お前今日バイトじゃ無かったのか?」


「え? うわっ! 忘れてた!」


 俺は飛び上がるように立ち上がり、慌ててズボンのポケットからスマホを取り出し、直ぐにバイト先に電話を掛けた。



 ◆     ◇     ◆



 二日後、季三月は母親に付き添われて登校した。彼女のお母さんは俺に丁寧に謝罪とお礼をの気持ちを伝え、その後職員室に向かったようだった。


 緊張の面持ちで季三月は教室の自分の席に座り、クラスメイトは彼女を色眼鏡で見ているようだったので、俺は季三月に声を掛けてみる。


「季三月、もう大丈夫なの?」


 彼女は急に席から立ち上がり、「お、大神君、先日はありがとうございました、もう大丈夫です」と言って俺に向かって深々と礼をした。


 その行動に驚いたクラスメイトは季三月に注目し、教室が静まり返った。


「ちょ、おま、気にすんなって!」


 俺は季三月の予想外の反応に気が動転してしまい、気の利いたセリフ一つ言えない。


 シンと静まった教室に男性担任が入って来て皆は席に着いたが季三月だけが立ったままだ。


「どうしたんだ? 季三月」


 担任の先生が不思議そうに彼女を見つめると、季三月は「先生、少しだけ私に時間をくれませんか?」と少し震えた声を上ずらせて聞いた。


 何となく季三月の気持ちを察した様子の先生は季三月を教壇に上らせて彼女の事を見守る。


 季三月は大きく息を吸い、目を泳がせたかと思えば俯き、口をパクパクさせてから言葉を発した。


「ク、クラスの皆さん、この間の放課後は、お、お騒がせしてすいませんでした! あの、あの……私、衝動的に自殺しようとして…………自殺しようとして……あの……私はもう大丈夫ですっ。だからっ、そのっ、本当にごめんなさい!」


 深々と頭を下げたままの季三月。彼女はそのままの姿勢で十数秒微動だにしない。


 時が止まったかのような教室に誰かの拍手が響いた。その拍手が皆に伝染し、クラスメイトから大きな拍手が起こり、「気にするな!」、「顔を上げて!」、「死ぬなよ、相談しろ、相談!」と声が掛けられる。


 頭を上げた季三月は瞳を潤ませて、「ありがとうございます」と言って席に着いた。


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