読めない彼女

第9話 スク水の意味

「大神、ゲーセン寄ってかね?」


 親友の中倉が、新地谷駅を降りた途端言った。


「え? 俺、あんまり金ねえからいいわ」


「コインゲームの預けがまだある、行こうぜ」


わりいな、それなら付き合うよ」


 新地谷駅から徒歩一分、俺達の行きつけのゲーセンに久々に入る。真新しい機械は入っていない、いつも通りの見慣れた光景。中倉は店員にゲーセンの会員証を提示して、カウンターから前回預けていたコインを受け取り、半分を俺に渡した。


 今日はツイてる、中倉のコインを元手にゲームをしたら一発目から大量のコインが手に入ったからだ。


 でも、俺は余りコインゲームは好きじゃ無かった、ゲーセン内はギャンブル染みた競馬やスロットの機械くらいしかコインで遊べるものが無いからだ。


 俺は直ぐにゲームに飽き、中倉にコインを渡し店内をふらついた。


 最近はゲームよりもUFOキャッチャーの方が多いな、俺はふとその機械をガラス越しに覗くとスク水に黒縁メガネをかけたアニメキャラのフィギュアが山積みにされていた。


「これってあの時の季三月彩子のコスプレじゃねえか」


 やっぱりコスプレ趣味だったんだ、なんか安心した、コスプレじゃないのに家であんな恰好してたらどう考えてもエロい商売してそうだからな。


 俺はスマホを取り出し、あの時の写真を眺めながらフィギュアと見比べた。ああ、髪型も同じにしてたのか、再現力高けえじゃねえかよ、しかも季三月の方が可愛い。


「何だよ、その写真、見せろ!」


 知らないうちに背後から中倉が近寄り、俺のスマホを覗き込んでいた。


 俺は咄嗟に電源ボタンを押してスマホの画面を消し、制服のポケットに仕舞った。


「今の季三月彩子だろ? 見せろって! 結構胸でかく無かったか?」


「違うよ」


「嘘言うな! なあ、親友だろ? 頼むよ!」


わりい、彼女の名誉の為に見せられない、今のは脳内から消去してくれ」


「アイツ何でスク水メガネだったんだよ、教えろよ、コスプレか?」


「俺にも良く分からないんだ、この間お前に聞いて神木町に行った時に偶然彼女に会って撮った写真だ」


「アイツ可愛すぎだろ! 何か萌えてきたー!」


「騒ぐなって」


「おい、あそこ。アイス屋出来たんだ、食いてえぞ」


 ゲーセンの奥に出来たアイス屋に中倉は走って行った、テンション高けえな、女子かよ。


 中倉はガラスの中のカラフルなアイスの入ったバケツを眺めて叫んだ。


「俺、チョコミントにする」


 マジかよ、俺は顔をしかめる、歯磨き粉味だぞ、でもそんな事を言ったらチョコミン党から袋叩きに会うから黙っておく。


「俺は……普通のソフトクリームでいいわ」


「女子かよ!」


 うるせえ、ほっとけ!


 俺と中倉は近くの空いているベンチに向かって歩きながらアイスを頬張った。


 その時、俺は自販機の陰から飛び出して来た人にぶつかり相手の上着にアイスを倒してしまった。



「うわっ! すいません! 大丈……季三月⁉」


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