第4話 敵前逃亡

 昨日はひどい目に会った、季三月彩子……許さねえ。


 水色のパンツが頭から離れない、俺はあの日ジャージに着替えて帰宅し、ションベンで汚れた制服を洗い、股関節が痛いのにもかかわらず少し悶々としてベッドの上で彼女の事を妄想しながら自分を慰めてしまった。


 絶対にゆるさん! あいつは絶対にサイコパスだ、気絶しそうな俺の反応をメモるとかおかしいだろ! 明日、学校で絶対にとっちめてやる。


 そして翌日、季三月彩子は登校しなかった。


 逃げたな、あいつメンヘラそうだし、今頃俺が怖くて頭から布団を被ってるに違いない。


 登校出来なくなるなら最初からやるなっての、バカな奴だな。


 翌日もその翌日も彼女は登校しなかった、さすがに気になってきた、まさかリストカットでもしようとしていたら怖いぞ。


「なあ、中倉。お前、季三月彩子の家知ってるか?」


 俺は教室で親友の中倉に聞いた。


 中倉は中学の時からの同級生で家も近く、よく遊ぶ腐れ縁の友達だ。楽しい性格で若干ウザい所もあるがコイツと居ると飽きる事は無い。


「何だよ急に、お前あの根暗無口美少女に興味あるのか? 止めておけって、あいつめちゃくちゃ変な奴らしいぞ」


「誰も話した事無いのに何で変人って分かるんだよ?」


「噂だけどな、アイツに係ると命を落とすらしい」


 俺は絶句した、正にこないだ俺が死にそうだったんだよ! 知りてえ、季三月彩子という人間を。


「季三月って確か西中だったから神木町しんきちょうに住んでるんじゃないか?」


「神木町か、しかも季三月って名字なら珍しいから直ぐ見つかるかも……」


 俺は放課後、彼女の事がどうしても気になり、神木町に足を運んでいた。ここら辺は一軒家が多い、表札を見て回るか。



 ◆    ◇    ◇



「季三月、季三月……全然ねえぞ」


 甘かった、珍しい名字だからってそんな簡単に見つかる筈もなく時間だけが過ぎ、太陽はビルの陰に沈みそうになっていた。


 高校から帰宅中の寄り道とはいえ自宅とは逆方向、無駄足だったか……。


 引き返すか、俺は諦めて駅に戻ろうと振り返ると、平凡な一軒家の玄関ドアが開き紺色のスクール水着を着た女が現れ、その家の前に止めてある青い車のドアを開けた。


 住宅街にスクール水着姿の変な女、季三月彩子じゃねぇか!


 季三月は俺の気配に気づき此方をチラ見して固まった。


「違う」


「まだ何も言ってねえだろ」


「これには訳が……」


 顔が引きつっている季三月はオドオドしながら小さな声で言った、顔には大きな黒縁の伊達メガネをかけ、萌え属性を一つ加え危険な可愛らしさを発揮している。


 カシャっと音を立てて俺はスマホで彼女の写真を撮った。


「あわわっ」


 狼狽した季三月彩子は変な声を出し、早口で更に言った。


「車にスマホ忘れたから、5秒だからスク水で外出てもオッケーだと思ったら大神いるし。あんたストーカー? 何でうち知ってるの? それより写真撮ったの消して、盗撮犯」


「おいおい! 何、大いに焦ってんだよ! 写真を消して欲しければ質問に答えろ、いいな」


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