第21話
「なぜ、貴方が・・・っ」
縛られたボロ着で砂まみれの白髪の男はかつて私の家に仕えていた執事、セントリウスだった。
「セントリウスでしょ?」
見間違えるはずがない。
私は彼に駆け寄る。
私の家に仕え、そして、エドワードが訪れた時に丁度出かけていたセントリウス。セントリウスさえいれば、エドワードなんて簡単に追い払ったに違いない。そんなセントリウスが今ここにいる。
「いい女だなぁ~~」
「ひっ」
いやらしい顔をした老人。私の知っているセントリウスはそんな顔をしないので、私はびっくりして距離を取る。
私の肌は鳥肌が立っていた。
「そうだ、俺がセントなんとかだっ!!だから、助けてくれよっ、ねーちゃんっ!!」
「黙れっ」
「くっ・・・」
抑えていた兵士がその老人を床に押し付ける。
「さぁ、行くぞっ」
連れていく兵士たちは私に怪訝の顔で横目で向けながら私の隣を歩いて行った。
私は混乱していた―――
カツッカツッカツッ
その夜。月の光を頼りに、私は石の階段を降りていく。
「ねぇ、あなたでしょ?セントリウス・・・」
私は鉄格子の先の老人に声を掛ける。老人は昼間とは一変して、背筋を伸ばし正座していた。
私の声にゆっくり目を開け、じーっと私を見て、
「なぜ・・・?」
老人はポツリと呟くと、瞬きもせず涙を流した。やっぱり、老人はセントリウスだったようだ。
私はそれが嬉しくて、でも、それが悲しくて素直じゃない笑顔しか作れなかった。
「なぜ、ここにいらっしゃったのですか、アリア様。ここにあなたは来るべきではなかった」
「そんなの・・・決まっているじゃないっ。あんな小芝居まで打って・・・。私たちは家族でしょ」
お父様はメイドさんも執事さんも家で働く人たちは一緒に暮らしていく家族だとお話された。当然そうは言ってもと、メイドさんや執事であるセントリウスは困ったような笑顔をするときもあったけれど、やっぱり嬉しそうに笑っていた。だから、小さかった私はセントリウスのことをおじいちゃんのように甘えて、よく本を読んでもらった。
セントリウスも執事の仕事が忙しかっただろうに、時間を作ってくれて・・・本当に・・・。
だから、セントリウスがなぜあんな態度を取ったのかずーっと夜まで考えた。セントリウスは私が暗殺者である自分との関係者であると兵士などに知られれば、内通者などの嫌疑をかけられることを瞬時に察し、あんな醜い姿を演じたのだろうと、私は理解した。
「なんで、こんなことをしたのよ・・・セントリウス。お父様は戦争を望んでいなかったのをあなたは知らなかったの?」
どうやって敵陣であるザンクセンブルク公国の本陣にもぐりこみ、一番厳重に守られているであろうザクセンブルク王を暗殺できたのか、とか、そんなことができるのは元々軍人だったのか、とか、色々聞きたかった。けれど、今この場所に兵士にバレずにいられることも奇跡に近い。時間がないので、一番気になったことだけ私は尋ねた。
「それは・・・」
セントリウスは膝の上に置いた拳を震わせる。
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