第13話

「おいっ、いたぞ!!」


 一番前にいた兵士が外で叫ぶ。


ピーーーーッ


 後ろにいた兵士が呼子笛を鳴らす。

 私はエドワードの遣いの者が来たと思って、怖くて硬直していた。

 そんな私のところへ濡れた格好で兵士はズカズカと近づいてくる。


「見つけました・・・、アリア様。ご無事で本当に良かった」


 兵士の帽子を取る動作で私は身構えてしまったけれど、帽子を取ると優しそうな顔のこちらを心配そうに見ていた。エドワードの兵士のような無表情で冷めた顔ではない。これは―――リチャードの兵士だ。


「よく、こんな空き家を見つけましたね」


 帽子の水を払いながら、兵士が訪ねてくる。


「えっ、何を言っているの、ここはこちらのおばあさまの・・・」


「おばあさま?誰もいませんよ?」


「えっ」


 怪訝そうな顔の兵士に言われて、ふり返るとそこには誰もいなかった。そして、たいそう大きな水晶玉も無くなっていた。


 でも、ろうそくは二つ存在した。

 私が点けた記憶のないろうそくが。


 私は部屋を見渡すと、出入り口は私や兵士が入ってきた場所しかなく、入り口の窓以外ははめ殺しになって出入りできるはずがない。私は狐につままれた気持ちになった。


「さぁ、戻りましょう。アリア様」


 兵士が手を差し伸べてくれるが、私はその手を拒んだ。


「でも・・・」


 私を疎む人がいる。

 自分でも自分が疎ましく思っているので、別にフロリアを憎いと思っているわけではないけれど、そう感じさせてしまうのは本当に申し訳ない気持でいっぱいで、フロリアやリチャードたちに迷惑をかけたくない。


「リチャード王子が大事な話があるそうです」


「大事な・・・話?」


「えぇ、自分がちゃんと話をしていれば、こんなことにはならなかったと、たいそう悔やまれておられました。もし、あなたが自分のために動けないのであれば、どうか王子のために城へお戻りいただけませんか?」


(リチャードのため・・・)


 スーーーッ


 私は恐る恐る私は兵士の差し出した手に自分の手を添えようと、手を伸ばしたけれど、


「うぅ、やっぱり私は・・・」


 私が逃げ出せばリチャードが困るのはわかっていた。けれど、私が長居する負担を考えれば、一時的に困ることの方が彼にとって良いと思った。だから私は再び手を引っ込める。すると、兵士はとても残念そうな歯がゆい顔をする。

 そして、説得の言葉を続ける。


「貴女様の父君からの手紙があるそうです」


「手紙?お父様からの?」


「ええ、そうです!!貴女様のお父様からの手紙です!!」


 兵士は私の反応を助長するように元気に笑顔で続けた。

 私はちらっと、老婆の板場所を見る。


「わかりました。ご迷惑をおかけしてすいませんでした。私は城へ・・・リチャードの元へ戻ります」


「はいっ!!」


 私は逃げるのを止めた。

 そして、もう一度だけ立ち上がることを決めた。

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