第3話
ザーーーーッ
一向に止まない雨。
「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・くっ」
冷えていく身体。冷えたせいで手首の痛みがより鮮明に感じて、その鋭利な刺激は私を苦しめる。
でも、私にはここしかない。
この想いでのお屋敷しかないのだ。
大事な両親を失い、婚約者には裏切られた・・・
「うううぅっ」
もう、身体も心もボロボロ・・・。雨でわからないけれど、枯れ切った私から涙は出ているのだろうか。
「お父様・・・お母様・・・。会いたいよぉ・・・っ」
死んだら天国に行くというけれど、厚い雨雲は黒くとても幸せな世界には見えないし、仮にその向こうに晴れ渡る世界があったとしても、私とその世界には分厚い雨雲が邪魔をしている。それは、二人とは二度と会えないことを示唆している気がして私は悲しくなった。
「私も・・・死んでも・・・いいかなぁ・・・?」
私はこんな世界を見ているのが嫌になり、そっと目を閉じた。
目を閉じても、感じるのは手首の痛み。しかし、どんどん冷たい雨に体温が奪われ、熱と共に私の魂も身体から少しずつ奪われて行く感覚があり、悲しみでいっぱいの私にはそれが心地よかった。
「・・・し?」
雨の音の中、遠くから声が聞こえた気がした。
けれど、私はこのまま無に返りたいのだから、特に気にもしない。
「もしっ?」
どこかで聞いた優しい声。
いや、私が知っている声はもっと高い声だったはずだ。
「大丈夫ですか?」
身体がゆっくりと揺れて、私は目を覚ます。
「どうされたんですか?アリア様」
「あなたは・・・」
ぼやけている瞳に映るのは、茶色の髪に優しいグレーの瞳の青年。
こんな人は私は知らない。
パチパチッ
よく見たら、思い出せるかもと思って瞬きするけれど、雨のせいか、涙のせいかもっとぼやけてしまう。
・・・けれど、ぼやけていくうちに目の前の青年が幼く見えた。
「リ・・・リチャード?」
「ああっ、そうだともっ。良かった思い出してくれて」
少年の頃のように嬉しそうな彼の声は声変わりで少し低くなっていたけれど、その落ち着きある声は私の心をわずかながら癒した。彼は嬉しそうに私の手を握るが、
「なんで、こんなに冷たく・・・」
私が彼の手をとても温かく感じたように、彼にとっては私の手はとても冷たく感じたのだろう。
彼は私の手を優しくさすりながら、温めてくれる。
「いったい・・・どうなっているんだ?」
「あなたこそ・・・どうして・・・リチャード・・・王子」
そう、リチャードはこの国の人ではない。
私の幼馴染。
そして・・・ザクセンブルク公国の第一王子、リチャード・ザクセン王子なのだ。
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