第6話 初催眠術(※)

 風俗ほか性についての描写をします。

 私の見解も含め不愉快に感じる方が多い内容となっています。

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 催眠術ができる自信などなかった。

 せっかく学んだのにもったいないとは思えど、積極的に学ばなくなった。


 ちょうどこの頃、フリーランスのSEとなり収入が倍増した。

 仕事も忙しくなったが楽しかった。


 彼女と別れたタイミングで、現場のお客さんの誘いで風俗に行き始めた。

 元が真面目だった私は、こっちの方向に真面目になってしまった。


 真剣にクズへの道を歩みだしたのだ。

 ポイント・オブ・ノー・リターン道を踏み外したのはここだと言ってもいい。


 風俗は高めの合コンみたいな感覚で、楽しく欲を発散させるのが目的。

 同じ女性と続くこと、続けることなど考えなかった。

 悪い方向の一期一会だ。


 自分についてわかったのだけど、Sっ気が強いらしい。

 自分が感じる快感よりも、女性が我を忘れる姿の方が楽しめた。

 情報を集め、どうすれば女性を逝かせるかを研究し実践した。


 ☆ ☆


 ご存じの方も多い内容になるが、女性の多くは思考で快感を生み出す。


 催眠術っぽく言えば、

 思考をトリガーにして体の刺激を快感に変換するとでも言おうか。

 思考の舞台が必要で演技が先にあるのだ。


 演技をしない女性がイクことも本気になることもまずない。

 これは風俗に限った話ではない。


 好みの男性を前にした女性はどんな様子になる?

 いつもと違った男受けしそうなキャラを見たことがないだろうか。

 近い距離間、潤んだ瞳、甘えた声色、増えるボディータッチ。

 演技をすることで自分の気持ちを高めていく。

 ほぼ自己暗示だ。


 不倫がなぜ止まらないのか?

 舞台の要件を必要以上に満たしてしまうからだ。

 パートナーでは絶対に作れない不道徳な要素は強烈。

 舞台上の演技は強烈な快感を生み出し、スポットライトを求め続けることになる。


 知ってしまったら戻れない。

 禁断の果実である。


 男としては自分のテクで女性を満足させたと思いたいが、女性にとっての重要度は違う。

 舞台の上で満足させられる男が良い男なのだ。

 舞台の準備ができなければ話にならず、せっかく磨いたテクも徒労に終わる。


 ☆ ☆


 といった事は当時知るはずもなく及びもつかなかった。


 ある時、風俗でとても相性のいい女性に当たった。

 相性は技術や努力でどうにかなるものではない。

 初見でドロドロになって楽しめたのは初めてだった。


 行為後のまどろみの中、何気なしに催眠術の話を振ってみた。

 なんとなく思い出したのだ。

 

 「簡単なのをやってみる?」


 「ほんと?やるやる!」


 ノリ気で答えてくれた。

 もう随分と催眠術から離れていて自信などなかった。

 寝転びながら手が固まるやつをした。


 目の前に手をお祈りの形にさせる。

 親指の関節を見続けてもらう。

 集中に入ったところで、バッと手を握る。

 大声で「ガッチガチに手が固まる」と声をかける。


 「えっうそ!」


 びっくりするくらい簡単に手は固まった。

 彼女がいくら手を離そうしても手は固まったまま動かない。


 「えっえっ」

 

 彼女が戸惑っていると同時に自分も戸惑っていた。

 正直固まるなんて思ってもいなかった。


 「どうする?もう少しこのまま楽しむ?すぐ解く?」

 

 内心ドキドキしていたけど、余裕のある演技をした。


 「といて!といて!」


 「ほらスーッと手が軽くなる」


 彼女の固まった手を包み込み軽く振りながら言うと、スッと手の力が抜けるのが分かった。


 「びっくりした~すごいね!」


 彼女の感想を聞きながらもホッとしていた。


 メールアドレスを交換して別れた。


 その後メールを入れた。

 ドロドロになった行為よりも、手が固まった事の方が話の中心だった。


 随分と久しぶりにAさんと連絡を取った。

 状況を簡潔に伝えたら、


 「おめでとうございます。イクっていうのは最高のトランス状態の一つなんですよ」


 と教えてくれた。

 エロ系は多くの催眠術師が通るのだろうか?


 この女性とは何度か会った。

 自分のテクに自信を持ち始めた時期だったから、自信すらなかった催眠術に興味を示されたのが気に入らなかった。

 相性がいいというのは格別だったが、遊び相手以上にはならなかった。


 今ならあれはこうだったなとか思うこと考えることもできる。

 当時は体系的な知識が何も無く、漠然とこんなものかと思うだけだった。

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