第4話 はじめてのフライト。兄の覚悟。

…朝食は体力をつけるためか、旅の割に豪華だった。

宿で提供していた分厚いベーコンを白いモチフワな水分量多めの白パンで挟んだものに、デザートで果物のモモン。この世界でよく食べられている赤くて丸い実。リンゴとは異なり、味は桃に近く甘くてジューシー。見た目はポテポテしている。私はそれらをちまちま食べる。


「よし。この後の事なんだが聞いてくれ。

とりあえず予定通り大国へ向かうが、途中のアーバン王国に寄るかどうか、だ。

本来のルートなら寄らないといけなかったんだが、上からとなるとその必要もなくなってな。お前ら二人はどうしたい?」


「寄りたい!観光!」

「俺も寄ってみたい。最近は発展してきてるんでしょ?」


「いいわね。観光。私ものんびりおいしい料理とか食べたいわね!」

母は前世から旅行が大好きだったもんね。よく父を引っ張り出して連れてってた。


「そうかそうか。焦ってるわけでもないしアーバン王国に寄ってから大国に向かうとしよう。しかしゴウとセイの魔力だって限界があるからな。飛翔と徒歩で向かおうと思う。森の中だってセイの好きな採取もできるし、ゴウも探検好きだろう?どうだ二人とも」


「「いいと思うっ」」採取、探検。そのワードを聞いただけで心が躍る。


「じゃあ今日はまず様子見で1時間ごとに徒歩と飛翔で切り替えて進もう。」



食後、出発の準備をする


「準備できたな。じゃあこれから飛翔して進むが、二人とも浮くだけでいいからな。

あとセイはまだ3歳。眠くなったらすぐ伝えるように。無理せず安全第一だ」


ペアは父と私。母と兄。で飛ぶことになった。

「いくぞ、準備は良いか?」

「ええ」「おう!準備満タンだぞ」「私も!大丈夫!」


「「「「飛翔」」」」


兄は母と手をつなぎ、私も父と手をつなぐ。それぞれ離れないように紐で手と手を結んでいる。


「じゃ、進むぞ!」「「「おーう」」」


木々の少し上を通るように進んでいく。

「二人とも、魔力大丈夫そうかしら?だるくなったりしてない?」


「私は今のところ大丈夫そう。むしろ新鮮で楽しくて元気だよ」

「俺も大丈夫。それよりも俺は...感激してる。」

兄は何故かジーンときているようだ。


「よし、じゃあ。このまま進むぞ」


…約1時間飛翔で森の上を通って進んだ。


「この辺でいったん降りて休憩するぞ。」

開けた場所を見つけたため、そこで一休みする事にした。



「どうだったかしら?初のフライトは」

なんだか飛行士みたいな言い方で痺れるぜっママン!


「感動だよ。俺もうこの魔法極める。」

「私も楽しめた。景色がすごいきれいだったな」


「そうだろう。上から見ると色んなものが見渡せて絶景だよな。魔力はどんなかんじだ?疲れてないか?」


「俺は少し神経使ったから疲れた。

けど魔力はあるし、身体的な疲れもないし平気」

「私はもうすでに眠いかも…。

食後のお昼寝できなかったからかな。魔力は平気そう」


「じゃあテントを張って少し休憩しましょう。」

「そうだな…おっとセイ来なさい。」

父に手を伸ばし抱っこされる。

地上に降りて安心したのか眠気が一気に押し寄せてきてフラついてしまった。


そのまま私は起こされるまでずっと寝てしまった。


その頃


「寝ちゃったねセイ。俺も眠くなってきちゃった。

あ、そうだ二人に話しておきたいんだけど、どうも俺たち2人興奮したりすると子供っぽく騒いじゃう事があるんだ。そういう所は身体年齢に精神が引っ張られてるみたいで、タガがはずれることがあるんだ。セイも気づいているとは思うけど、2人注意しててくれないか?本人が言うのもおかしいとは思うけど…」


「ああ分かった。よく気づいたな。確かに二人魔法を観たときの喜びようは子供っぽかったもんな。だが元よりそのつもりだ。俺らにとって子供なのは前世でも今でも同じこと。しっかり注意もするし、守る。今の俺にはその力もあるからな」

父が苦しそうな嬉しそうな顔で俺の頭をわしゃわしゃ撫でる。

手が大きいな。そう感じた。


「お父さん。ありがとう。俺も…俺も守れるようになる。お母さんもよろしく」

「ええ。もちろんよ」

お母さんは目に涙を浮かべながら頷いてる。


そうだ。チャンスがもう一度来たんだ。絶対守ろう。今度こそ。




「そろそろ起きなさい、セイ」

揺さぶられている。まだ寝たい。丸まって抵抗する。


「これは起きなさそうだぞ。

おい。セイ。採取は良いのか?次起こすのは飛翔する時になるぞ。森の探索がなくなるかもなぁ~」


それはいけないッ!ガバと体を起こす。

すると兄もバサっと起き上がった。



「おはようセイ。お父さんさすがね。あら、お兄ちゃんも起きたのね。

二人ともそろそろ休憩は終わりよ。すこし早いけどお昼ご飯食べてからまた進むわよ」


1時間以上寝たのだろうか、すっかり日が高くなっていて時間的には12時前頃だろうか。

ちなみに時間の計算は地球と同じ。太陽の周期が同じなんだそう。

星も惑星もすこし変わったのが見えるが、そのくらいでほとんど地球とは大差なさそうだ。


「まだ眠いな~...ん!いい匂い!今日のお昼パンケーキ?」

「おう。ちょっと甘いの食いたくなってな。お母さんと作ったんだ。」

父が笑顔でこっちを振り返る。フリフリのエプロンを着て...


「お父さん。私は時代の流れを理解しているよ。ジェンダーと趣味嗜好は多様な世の中になってきているってね!」

「おう。俺も、前世で女装している友達もいたから抵抗はないぞ!どんな格好していても俺たちの父親には変わりはないからな」

兄も私も真剣な顔でうんうん頷く


「いやいや!女装が趣味じゃないからな!これはお母さんのエプロンしかなかったからだっ!ゴウが最後めちゃくちゃ嬉しいこと言ってたが、断じて趣味じゃないぞ。

まあ料理するのは好きだがな。」


「そ...そうか。異世界で新たな扉...ニューステージに立ったのかと思ったぜ。」と兄

「私も。でも料理が好きなんて知らなかった。お父さんは食べ専かと...」と私


「まぁ前世では働きづくめで料理する気力も時間もなかったからな。

まあそんなことは良い。とりあえず何の味付けでパンケーキ食いたい?」


目の前には何もトッピングされていない、ほかほかのパンケーキが2枚重である。

「うまそう。おれメープルシロップみたいなので食べたい」

「私は、ベリー系のジャムで食べたい!」


そういうと父は私たちの前に、黄色の透明がかった液体の入った瓶と

鮮やかな深い赤色のジャムっぽいのが入った瓶を差し出した。


「この二つはこっちの世界でよく甘味に使われるものだ。試してみるか?」


コクリ。と頷き、二人でパンケーキに液体とジャムを垂らして食べてみる。


「!!!これは、美味い。黄色の液体はメープルシロップに近い豊潤さがあるけどどこかにレモンっぽい爽やかさがあるな。」兄はどうやら美味しいものを食べると饒舌になるらしい。

「このジャム!おいしい!ブルーベリーに近い味だけど甘味が強いね!それに負けないくらい酸味も後からくるっ」食べているのによだれが止まらない味わいだ。


「あらあら。そんな幸せそうに食べて。

まだあるけど。歩くからほどほどにね。」



そうして午後からの進行に備えて、うまあまエネチャージを行った。

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