その6③「ゲームはあまり得意じゃありませんっ」
「げ、げーむ、せんたー……なんて久しぶり、ですっ……」
札幌駅正面から見て右手側、大きな電気量販店の9階に着くと僕の右側に立つ地味はそう言った。
「そうなのか?」
「あ……はいっ……というよりも、ゲーム……がかもしれませんっ」
「スマホゲームとかはしないのか?」
「……っん」
こくりと頷く地味。その薄く小さい声音は彼女がどんなに可愛く、派手になろうとも変わっていなかった。
うん、まじでゲーセンの音がうるさくて地味の声が聞こえずらいっ! というかもう、聞こえない‼
「……そうか……まあ、別にスマホゲームとは違うし、せっかく来たんだしなっ、よしっ楽しもうぜ!」
「はっ……はいっ」
「それじゃ行くか」
「ん」
綺麗な黒色の瞳をパチパチとさせた地味の手をさりげなく握り、僕は彼女を引っ張った。
っと、引っ張ったのは良いものの……地味がどういう系等のゲームが好きなのかなどはよく分からない。まったく、何か女の子らしいものを取ってあげるために来たのが当初の目的だが、いざ来てみれば何をすればいいか分からん。
これが楓とかといっしょなら互いに好きな音ゲーでもして、クレープ食べて……って好きに動けるが、相手は地味。そして好きな人だ。
下手に動くことはできない。
「えっと……その、なぁ、地味……凄く言いずらいんだがぁ、自ら言って申し訳がないんだがぁ……」
僕は数歩進んで立ち止まった。
そして、恐る恐る振り向いて——
「————地味は、何がしたい?」
パチリ。
いつもは丸眼鏡から覗かせる綺麗な瞳が再び大きく見開かれる。
「え」
「あ、ぁぁ……そのぉ、だな……」
「……っぷぷ」
「え、え?」
すると、地味がクスリと噴き出した。
プルプルと肩を震わして、お腹を押さえて笑っていた。
「え、ぁ、地味?」
不意の一撃に僕は呆気にとられた。
「っぇ……ぇへへ、い、いや……ね、なんか……なんか急にでっ……笑っちゃって……」
目を瞑り、蹲るようにしてお腹を抱える彼女。
地味が笑うことすら珍しいというのに、僕を馬鹿にするように笑って……それが少しむず痒い。
どうすればいいかと、まるで始めた会ったときの地味みたくあたふたしていると、少し落ち着いたのか、すくっと顔を上げた。
「いやぁ……なんでも、ないっよ……すっごく元気で明るくて……引っ張ってくれた、そ、その……す、鈴木くんが……自信なさげなのが……ちょっとかわいく、てね……」
いつもは見せない表情。
真顔は少しむすっとしていて、いつも顔を赤くさせている地味が見せる元気でいじわるな姿に僕はふと、見惚れてしまっていた。
「あ、あぁ……」
「その……じゃ、ぁね……私は……その……く、おと、おと……音ゲームとか、したいかな……?」
「おとげー?」
「はいっ、その……私、あんまり音楽得意じゃないんですけど……み、みてみたいなぁって……」
「あ、じゃ、じゃあそうするか……」
「えへへっ……やったぁ……ん、やっぱり……い、今のなし」
「……」
すると地味は「にへらぁ」と笑みを溢したかと思えばふと我に返り、手のひらを掲げ、やっぱりなしと言い出す。
……かわいい。
「かわいい……」
「っ⁉」
「あ、いや……なんか、えっと……いつもの地味に戻ったなぁと……」
「っへ⁉ あぁ、いや……み、見ないでぇ……」
まじで戻ったし、いつもの地味に。
急に。
しかも、なんだこれ。
僕、鈴木だけどなんだこれ。
めっちゃ可愛いんだけど。
あぁ、そっか。地味は思い出させてくれたのか。地味子はやはりかわいいと。最近は少し、女の子ってどうなんだろうかとかって考えてたからな。
地味子は地味子らしさがある。
そこに合わせなければ本末転倒だろう。
「見るぞ?」
「ふぁっん……み、みないでっ……」
「みるみる、めっちゃ見る」
そうそう、この顔だ。
この顔。
いつもとは違う明るい恰好に、地味本来の可愛らしさが合わさるこれだ。
よしっ‼‼
今日はいっぱい、可愛がるぞ‼‼
そうして僕は離した手をもう一度掴み、今度は離さないように強く握って奥にある音ゲーコーナーまで向かった。
昨日は投稿できなくてすみません。
疲れから来た気持ち悪さであまり書けませんでした!!
次回、その6④「音ゲーでぎゅっとしちゃおう?」、お楽しみに!!
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