「あからさますぎ」
星桜は今、自身の家に帰り、部屋にあるベットの上で横になっていた。
妖傀を灰にしたあと、弥幸は刀や炎狐を御札に戻しながら星桜に告げる。
「明日が最後のチャンスだよ」と――……
言うと、星桜の返答を待たずにその場から姿を消した。残された星桜は言葉の意味も理解出来ず、ただただ困惑するばかり。それだけではなく、この後どうやって家に帰ればいいのかもわからない。
「え、ちょ。赤鬼君!?」
やっと気を取り直した星桜は、誰もいない空間に名前を呼ぶ。だが、帰ってくるのは虚しい風の音のみ。
崖を見上げ絶望の顔を浮かべていると、木の影から前回も送ってくれたアイが「送って行くわ」と出てきてくれた。
崖を登る際、またしてもひとっ飛びだったため、星桜が叫んだのは言うまでもない。
そんな事がありながらも、無事に帰宅できた星桜は、ベットの上で妖傀の流していた涙について考えていた。
弥幸によって頭部を斬り飛ばされ、偶然にも視線が合った時に流していた涙。気になるのはそれだけではなく、戦闘中に放っていた言葉も、星桜は気がかりなものだった。
「なんで妖傀は私を呼んでいたんだろう。しかも、すごく悲しげで、苦しそうだった……」
妖傀は人の恨みが具現化した姿。恨みが内側だけでは抑える事が出来ず、生霊のような姿になり、対象を殺す。
恨みの化身である妖傀が、悲し気に涙をこぼし、縋るような声を出すだろうか。初めての事が多すぎる星桜は、考えれば考えるだけ疑問が頭に浮上し、不安を拭いとる事が出来ない。
「妖傀の正体って本当に──なのかな……」
いくら考えても意味はないと、採取的には諦め、星桜は暗い顔のまま仰向けになり、目を閉じた。
☆
次の日の朝、目覚ましの代わりにスマホの着信音が鳴り響いた。
まだ眠っていた星桜は目を擦りながら、誰からの着信か確認する。だが、なぜか非通知からかかってきており眉を顰めた。
最初は出なくてもいいかと考えたが、ずっと鳴り響き止まらない。意を決して、スマホに写っている電話のマークを横へとスライドし、おそるおそる耳に当てた。
「も、もしも──」
『遅い。僕を待たせるなんて君はなんて偉い人なんだ。命の恩人である僕をもっと称えなよ』
「……………………僕僕詐欺ならお断り──」
一瞬にして誰かわかった星桜は、呆れと怒りで強制的に電話を切ろうとした。だが、次に聞こえた言葉に慌てて立ち上がる事となる。
『今すぐ準備して僕の家に来るように。遅かったら、僕が繰り出す炎でお前の家を燃やし尽く──』
「わかったわかった!! 今行くから待っててよ!!」
星桜が叫ぶと、なんの返事もせず電話はプツンと切れる。
暗い画面になったスマホを見て、星桜はわなわな震える手で、スマホをベットに叩きつけた。
「〜〜〜〜赤鬼君のアホォォォォオオオオオオ!!!」
☆
「遅い」
星桜が全速力で走り、十三時過ぎに紅城神社に辿り着いた。
電話を切った後、星桜はベットから飛び起きタンスに手を伸ばす。一番上にあったピンク色の短パンと白いシャツ、ピンク色のパーカーを着て。髪は走りながら寝癖を誤魔化すように結んだ。そのため、今日は珍しくポニーテールをしている。
準備が完了した彼女は全速力で走り、準備含め三十分以内で辿り着いたのだが、弥幸からの開口一発は文句も言葉だった。
「こ、これでも……急いんだん、だけど……はぁ」
息を切らし、鳥居に寄りかかっている弥幸を睨みながら文句を言う。それでも彼は、星桜の様子を気にせず、ただただ見下ろしているだけだった。
今の弥幸は、昨日の同じ服を身にまとっており、腰には狐の面がつけられ風により揺れていた。
「くそっ。赤鬼君って本当に性格がわるい」
「なら、これはいらないかな」
弥幸は言いながら、手に持っていたであろう未開封のスポドリを星桜に見せつけた。
「え、くれるの?」
「君は性格悪い人からスポドリなんて物貰いたくないでしょ? 仕方がないから僕が飲むね」
意地の悪い言葉を言い放ちながら、未開封のペットボトルを開け飲もうとする。
「ま、待って待って!!! 赤鬼君って本当に優しくて紳士的な出来る人だよね!!! 人の事をしっかり見ていて、本当に尊敬しちゃうなぁ!!」
星桜は必死に笑顔を作り、弥幸を必死に褒め称える。それを見ている弥幸は、ペットボトルを下ろし口角を上げ、星桜を見下ろした。
「君、あからさますぎ、却下」
「あぁ!!! 私のスポドリ!!!!」
弥幸は遠慮なくスポドリを飲んでしまった。それを目の当たりにし、星桜は叫んだと同時に肩を落とし、膝をつく。
「くそっ。この悪魔……」
項垂れる星桜に弥幸は冷たい目を向けている。すると、屋敷の方から元気で明るい声が聞こえた。
「弥幸お兄ちゃん、あまり虐めないであげなよ。せっかくできた唯一の友達なんだからさ」
「へ、お兄ちゃん?」
星桜はいきなり聞こえた女性の声に顔を上げた。そこには、黒髪に銀色のメッシュ。目は弥幸と同じく真紅に染まっており、綺麗に赤く輝いていた。
ぱっちり二重、可愛い顔立ちをしている女性が、弥幸の背中に手を添え笑顔で話しかけている。
どこかで見た事があるような容姿に、星桜は思わず凝視した。
「あ」
「あっ」
女性は項垂れている星桜と目があり、軽やかに近づき目の前でしゃがむ。右手には、未開封のスポドリが握られていた。
「初めましてではないんだけど分かるかな。私は
逢花は笑顔で自己紹介をし、スポドリを渡す。星桜は釣られるように「ありがとう」と言い、差し出されたスポドリを素直に受け取った。
「──って、赤鬼君、妹さんいたの!?」
「うん」
「うんって、私聞いてない!!」
「言う必要性今まであったかな?」
「……ない」
星桜は弥幸に完全に負け、肩を落としながらも立ち上がり、スポドリを開ける。相当喉が渇いており、一気に半分くらいまで飲み喉を潤した。
「ぷはぁ!! 運動の後はやっぱりスポドリだよ!!」
「ジジィ」
「おだまり!!」
星桜と弥幸の会話をくすくすと笑いながら見ている逢花。その様子に気付き、星桜は慌ててペットボトルの蓋を閉める。
「えっと、はじめまして。私は──って、さっき私の名前言ってた?」
「うん、言ったよ。翡翠星桜さん。私と貴方ははじめましてじゃないんだけど、やっぱりわからないかな」
ニコニコ笑いながら問いかける逢花に、星桜は記憶をさかのぼるが思い出す事が出来ない。首を傾げながら、眉を下げ彼女を見返した。
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