第20話

「くっ」


 さすがの男もその黒い剣のため込んだ光が危険なものであることを理解し、距離を取ろうとする。


「無駄だ」


 鋭く無駄のない一振り。

 

 黒い三日月のような斬撃が男を襲う。


「あああああっ」


 全身に深手を負う男。

 そんな男を見て、レイラは思わず口を抑えてしまう。

 名前を呼びたくても呼べない男。


「逃げてっ!!!」


 もう、人が傷つくところを見たくない。

 レイラは叫んでいた。


「はははっ、そんな悲しそうな声を出すレディを放って置けるわけないじゃないか・・・」


 男は立ち上がる。


「ボクの名はエリオット。キミの名は?」


 にこっとレイラに微笑みかけるエリオット。


「レイラ・・・レイラよ」


 泣きそうになりながら、レイラが答える。


「なっ」


 先ほどいくら聞いても名乗らなかった二人が名前を告げ合う。

 キュラドにとってこれ以上ない屈辱だった。


「そうか・・・キミが・・・」


 嬉しそうにするエリオット。


「ならば、なおさら負けられないな」


 もう一度剣を構える。

 その意志に答えるように聖剣も清く光った。


「おのれっ!!!!」


 キュラドが怒りに身を任せ、魔剣レヴァンジルを振り上げて襲い掛かる。






「勝利あれ」





 エリオットがそう唱え終わったとき。

 すべてが終わっていた。


「ぐふっ・・・」


 聖剣カテーナルは真っすぐにキュラドの胸を刺していた。

 キュラドは最後の力を振り絞って剣を振り下ろそうとするが、剣の束を離してエリオットが離れて背中を向けて歩き出す。


「ごほぁ」


 キイィーーンッ


 魔剣レヴァンジルが大理石に落ち、揺れながら音を出す。

 その音は清らかな音を出した。


 キュラドは血を吐きながら跪いた。


「レ・・・イラ・・・」


 物欲しそうな顔でキュラドはレイラに手を伸ばすが、二人は大分離れていた。


「俺は・・・貴様を愛して・・・いる」


「・・・っ」


 レイラは怖くて答えられなかった。


「ふっ・・・我なら・・・貴様のことを理解してやれたものを・・・」


 そう言って自虐的にキュラドは笑っても目を閉じて固まった。

 その姿は神々しくも、闇を抱えており、キュラドの死がその美しい最高の絵を完成させたようにレイラは感じた。


「大丈夫かい?レイラ姫?」


「ええ、おかげさまで・・・あっ、そうだ。みんなは?」


 レイラは『姫』と呼ばれたことなど気にも留めずに虚ろな人々を見た。

 すると、


「「「「うがあああああああああっ」」」


 レイラを除く女性たちは頭を抱えながら、なりふり構わずもだえ苦しみ始めた。まるで、何かのリミッターが解除されたかのように―――

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