第8話 守りの骨
「ここか……」
俺達が【ダンジョン防衛隊】の車両に乗せられてやってきたのは、
車から降りると潮の香りが鼻を抜ける。
「うーん、いい場所だねー。あ、向こうに展望台あるみたいだよ! 後で行ってみようよ!!」
川津 海未はその名の通りに海が好きなのか。
元より高いテンションを更に高めて砂浜目掛けて走って行った。
「なんで、川津 海未さんまで付いてきてるんだよ」
「いいじゃねぇの、リキ。人は多いほうが楽しいぜ?」
「今は人を遠ざけてる状況なんだけどね」
俺は駐車場を見る。
止められている車は一台もない。ここに来る途中だって、車両整理が行われており誰も近づかないように誘導されていた。
そんな仕事をするのも【ダンジョン防衛隊】の業務の一つだった。
「で、敵さんがいるのはあそこか? へっ。腕がなるぜぇ!」
ガイが見つめる先には10人程度の隊員が、海賊船をモチーフにした遊具を囲う様に集まっていた。
「おお! 隊員さん達沢山いるねぇー! よーし!」
砂浜を駆けまわって満足したのか、いつの間にか戻ってきた海未が俺の横に立っていた。
そして、待機している【蒔田班】の面々に向けて大声を放った。
「異世界からやってきた【スキル】持ちのガイ師匠が来たから~もつ安全だよ〜!!」
「馬鹿!」
俺は海未の腕を掴み、ガイは身体を丸め、叫んでいた海未の口に飛び込んだ。
「ふが、ふが!」
「ガイのことは誰にも言うなって!」
幸い隊員達と距離があったために海未の声は、はっきりと聞こえなかったらしい。
だが、俺たちの存在には気付いたようで、隊員達の中から一人こちらに向かって歩いてきた。
「蒔田さん」
「やあ、久しぶりだね、瀬名隊員。【磯川班】は相変わらずかい?」
丸い顔と丸い眼鏡。
そして何よりも優しい笑顔。
自然とこちらまで穏やかな気持ちになる。それでいて、いざ、戦闘になれば指示は的確で、自らも率先して前に出るのだから、リーダーとして人気があるのも頷ける。
「ええ。変わらずですね」
「でも、【
「……流石です」
【磯川班】が救助を断ったという情報は届いているだろうが、そんなことは気にもせずに頑張ろうと言い切る蒔田さん。
素直に尊敬できる性格だ。
「あ、それで、立花隊長から君に【特殊装甲】が届いているんだ」
「ありがとうございます」
蒔田さんは言いながら俺に細長い筒のような物を手渡した。
俺はそれを受け取ると右手に取り付ける。
「中には【
【特殊装甲】は【
装着者が身に着けることで、組み込まれた【
それ故に、強力な【
「これだけあれば、充分ですよ」
「そっか……。それで、その彼女は?」
蒔田さんが怪訝そうに川津 海未の存在を聞いた。今まさに【
「あ、えーと」
なんて説明しようかと悩んでいると、隣で川津 海未が天に真っ直ぐ腕を伸ばした。
「私は瀬名先輩の後輩で【探究者】目指してます! なので今回は見学にきました!!」
「【探究者】……? 今のご時世、出来れば防衛隊に入るべきだと思うけど……。ま、いいか。じゃあ、もうすぐ現れると思うからよろしくね」
蒔田さんはそう言いながら自分の持ち場に戻っていった。
「凄い! これが【特殊装甲】! これがあれば……」
「何考えてるのさ。これだって訓練しなきゃ上手く扱えないんだよ。素人が簡単に使えるもんじゃ――」
右手に纏わり付く海未を振り払っていると、海賊船の扉が開いた。
◇
扉を壊すように鋏を広げて出てきた【
その名の通り鋏まで乳白色の骨格が露になっていた。
扉から出ると同時に【蒔田班】の面々は手にしている銃の引き金を引く。
待ち伏せて全方位からの銃撃は、【
強固な骨は銃弾を弾く。
「かぁ~。こりゃまた、中々の強敵そうだな。俺達も早めに助けに入った方がいいだろ?」
攻撃をしているはずなのにジリジリと【
このままでは陣形が崩れて犠牲者が出るのは時間の問題だ。
「そうだな。ひとまずは……人目が無い所に行こうか」
俺はそう言って戦いの場から離れる。
車に乗ってきた道を引き返す。
黒頭港公園は緩やかな丘の上に作られており、少し離れれば坂が俺たちの姿を隠してくれる。
「ここまでくれば大丈夫。ガイ、行くよ!」
「よっしゃ!! いっちょ戦いますか!」
ガイはその言葉と共に【鎧】となる。
【鎧】を身に着けた俺は全身から力が湧き出てくるのを感じる。
俺は緩やかな坂道に向けてジャンプする。
鎧を身に着けていなければ数分は掛かるであろう坂道を十秒ほどで駆けあがると、鋏を開いて隊員を掴もうとする【
「やばい!!」
『喰らえ! 【
空中に撥ねた俺は右足を伸ばして蹴りを放つ。
落下の速度がプラスされた飛び蹴りは鋏をズラすに留めた。今までの【
『ちっ。頑丈そうなのは見た目だけじゃないらしいな』
「うん。これはちょっとヤバそうだ」
【
俺はちらりと後方を見る。
背後には銃口を向ける隊員たちがいた。
突如として現れた俺を敵と認識しているようだ。
【磯川班】のように単純に助けに来てくれたと思ってくれた方が有難かったが、流石は優秀な【蒔田班】だ。
未知の鎧を味方と判断はそう簡単にはしないらしい。
『ただですら厄介なのに、どうすんだよ!』
「早めに勝負決めてこの場から逃げるしかないね」
『だから、それが出来ねぇから面倒なんだろうが!!』
「……相手の防御が固いなら、それを上回る攻撃力を扱えばいいだけのことだよ」
『げ……。あれやんの? お互いにめっちゃ疲れるし、折角手に入れたの失うことになるぜ?』
「別に構わないさ。いいから行くよ!」
『かぁー、分かったよ!』
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