第2話 ハリネズミと共同戦線

「明日からどうしようか」


【磯川班】を追い出された俺は行く当てもなく歩いていた。両手に手錠を付けた男は不審に思われるのだろうか? 通り過ぎる人々の距離が、いつもより遠くに感じた。


「荷物は寮に置いてきちゃったしな」


 置いてきたっていうか、そもそも荷物を整理する余裕は無かっただけなんだけど。

 現代に置ける生活必需品すら揃っていない。


「あるのは財布と身分証明、それにスマホだけか」


 ポケットに入れていた財布を開いて全財産を確認する。

 給料日後だったから、いつもより多めの二万円入っていたのは有難い。後は免許証に隊員証もあるのはデカいな。

 というか、隊員証は持ってて良いのだろうか? 落ち着いたら確認しとこう。


「今はこれだけあればなんとかなるか」


 足を止めて財布を確認していた俺は、川の横に作られた遊歩道を歩く。

 寮を追い出された俺がどこに向かっているかというと、答えは橋の下だった。


「【磯川班】に置いてあった漫画に、橋の下なら雨風しのげるって描いてあったもんな」


 なんかの不良漫画だったけかな。置いてあった漫画は基本、車か喧嘩の話だけだったので、そのどちらかであることは間違いないだろうけどな。


「俺は断然、少年漫画派だったんだけどな……」


「って、そんなことはどうでもいいだろうが!! なんで助けたお前が追い出されてんだよ! 追放されてんだよ!」


 川の上流に歩くに連れ人影は減り、今となっては俺以外誰も人は歩いていない。

 にも関わらずに、俺に話しかける声があった。


「人が寝ぼけてる間に大きな転機迎えてんじゃねぇよ!! くそ、あんなこっぴどく言われたのに、りきはなんも言わねぇから夢かと思ってたぜ」


 そう言いながら声の主は俺の肩に登ってきた。

 手のひらサイズをした人形。

 姿はハリネズミが二足歩行をしたようなフォルムだ。表情だけ見れば可愛らしい顔つきだが、口調は荒く粗暴の悪い少年のようだった。


 こいつの名前はガイ。

ダンジョン】からやってきたという存在だ。元の姿は人間だったのだが、今は訳あってハリネズミの人形となっているーーらしい。実際に人の姿を俺は見たことないので、ガイの言うことを信じるしかないのだが。

 

「つーかよ、お前もただ追い出されるんじゃなくて、助けてやったのは俺だって言っちまえばいいじゃんかよ。ここ最近、強ぇ魔物を倒せてるのは全部、お前の――【三本角の鎧】のお陰じゃんかよ」


「……」


 そう――。

 昨日、森の中に現れた【大鬼オーガ】を倒した【三本角の鎧】の正体は俺だ。


 異世界の存在であるガイの力を借りれば、屈強の【魔物モンスター】とも戦える。

 この3ヶ月、ガイと協力して何体かの【魔物モンスター】を倒したが、その結果が追放だった。


 もう少し上手くやれたら、追放こんなことにはならなかったのかも知れないが、自分の人間関係の不器用さは誰よりも知っている。


「こんな目にあうならよ、俺たちの方が強いってことを分からせてやりゃあ良かったじゃんか。なのになんでわざわざ俺達が……」


「仕方ないよ。そんなことしたら【ダンジョン防衛隊】の上層部が動くし。今まで指摘されていなのは、【磯川班】だけにしか知られてないから。彼らは面倒な報告とかしないで、全部自分たちで倒したことにしてたから、俺たちの存在が隠されてたんだよ」


 本来、【魔物モンスター】を容易に倒せる存在がいるとなれば、直ぐに上に報告するのが義務だ。

 だが、磯川はそれをしなかった。全てを自分の手柄として報告し、莫大な報奨金や武装を手に入れていた。

 その行為がガイの存在を隠してくれていたのだから、一概に責められない。

 

 異世界人なんて舌が出るほど欲しい研究対象。何をされるか分からない。

 もしも、ガイに何かあれば――世界を守る力が失われることになる。

 それだけは避けなければならない。 


「でもよぉー。お前が投げ飛ばされた【小鬼ゴブリン腕力わんりょく】だって、俺達が倒した奴じゃんか。あー、くそ、考えれば考えるほど面白くねぇ!!」


「そこに関しては俺だって少しは怒りたいさ。でも、彼らも含めて「世界」だって考えれば、守れただけ良しだよ」


 背中に生えるトゲを震わせ、短い前足ならぬ両手を震わせるガイ。


「けっ。何が「世界、守らせて貰います」だ。恩人の言葉で自分の牙を隠しやがってよ」


 怒りが収まらずに悪態を吐く相棒に言う


「ま、とにかく今日はゆっくり休んで、また明日考えよう」


「宿なしじゃ、ゆっくり休めねぇよぉ……。たく、どんだけ能天気なんだよ、リキはよぉ!!」


 暗くなった河川敷にガイの情けない声が響いた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る