ハイスペック高校生、今日も知らずに覇道を歩む

古橋庵

1年生 最強、始動

第1話 新たな場所といつもの人達

 よく春は「出会いと別れ」の季節だと言われているが、今の自分の場合は出会いの方だろう。なぜなら今日は、新しく入学する高校の入学式当日だからだ。

 まぁ、だからといって気持ちが浮ついたり、緊張したりするということはない。ただ多くの人に祝われて、偉い人の話を聞いて、クラスの人達と自己紹介する。俺に言わせれば、ただそれだけのこと。緊張する要素なんてどこにもない。と、下らないことを考えていると、朝の日課である5時からの1時間のランニングが終わり家の前に着いていた。そして、家に入り、シャワーを浴びて、制服に着替え、朝食を作る。朝食を作り終えて皿に盛り付け、テーブルに盛り付けた皿を並べていると、階段を降りてくる足音がしてくる。


「おはよう。怜」


「おはよう母さん」


 そう眠たげな声で俺に声をかけたのは、俺の母である神崎奏かんざきかなで。緩くウェーブのかかった茶色の長髪に170cmはある高い身長と長い美脚、痩せすぎず太りすぎずな腹部ときめ細かい白い肌、豊満な胸を併せ持つ、女性の理想のような身体をしている人だ。自分の母親に使うのも違う気がするが、息子の俺から見ても綺麗な人だと思う。正直、その見た目で本当に40歳なのかと疑問に思ってしまう。

 実際、家族で買い物や旅行に行くときなんかは常に誰かに見られているし、初対面の相手にはいつも20代後半から30前半に間違われている。職業はプロのヴァイオリニストで、作曲もしている。なので、いい譜面が思いつかないときは、いつも徹夜している。だからなのか、いつもは穏やかなでくりくりした綺麗な目が、徹夜明けになるとその半分しか開いておらず、目からは疲れが滲み出ている。


「いつもごめんなさいね。朝食を怜に任せっきりで」


「別にいいよ。好きでやってることだから」


「そう。それなら良かった」


 料理は俺にとって趣味みたいなものだから朝食作りなんかは苦ではないし、むしろ趣味と実益兼ねられるので一石二鳥だ。


「それより母さんは曲作りは大丈夫なの?昨日徹夜してたけど」


「ばっちりよ。いい感じの譜面が作れたわ」


「そう。なら良かった」


 そんな他愛もない会話をしているうちに、階段を降りてくる足音がしてきた。


「おはよう。奏、怜」


「おはよう。あなた」


「おはよう父さん」


 そう渋い声で俺と母さんに声をかけたこの人は、俺の父である神崎昴かんざきすばる。190cmはある長身に加えて、鍛え抜かれた強靭な筋肉を兼ね備えている。彫りの深い顔をしているが若々しく、本当は45歳であるのに30代後半に間違われることもしばしばある。職業は俳優で、結構人気があるらしい。

 そんな2人を親にもつのが俺こと神崎怜かんざきれい。身長は180cm位で同年代と比べても高く、顔も整っていると思うし、自分にある程度の才能があるのも理解している。だが、中学のときはそんなこと全くと言っていいほど理解していなかったので、自重せずに過ごしていたら、色々面倒くさいことに巻き込まれてしまった。なので俺は、高校生活をなるべく静かに送りたいと思っているが、まぁ無理だろうなと思う。そんな3人で今は暮らしている。上に2人姉がいるが、今は大学生なのでアパートを借りているらしい。ちなみに神崎家は二階建ての一軒家だ。


「全員起きたし、冷めないうちに食べちゃおう」


「そうね」


「そうだな」


 俺の言葉に二人は頷いて、席に着いた。この家では基本的に食事は家族全員で食べる。父さん曰く、コミュニケーションをする場と家族の絆を深める場を増やしたいからだそうだ。


「それじゃあ」


「「「いただきます」」」


 手を合わせ、同時に挨拶して食べ始める。食べてみると、自分で言うのもなんだが、うまくできていると思う。こういう時、自分で作れてるようになって良かったと思う。


「そういえば怜。入学式に持っていく物の準備はできているのか?」


 と、唐突に父さんが聞いてきた。


「問題ないよ。昨日のうちに全部確認して鞄に入れておいたから」


「そうか。それなら心配ないな」


「入学式、楽しみね。私たちも後から行くから、胸張って歩きなさいね」


「分かってるよ」


 そんな会話をしているうちに全員食べ終わり、ごちそうさまでしたを全員でして皿洗いをしようとしたら、母さんが「このぐらいはさせて」と言ってきたのでお言葉にあまえて部屋に戻り、荷物の最終確認をし、時間が余ったので本を読むことにした。

 30分午、そろそろあいつらが来る頃かなと思い、1階に降りると、案の定リビングにいた。


「おはよう~。怜」


 この間延びした声の主は俺の幼馴染の佐双蓮さそうれん。俺と同じ位の身長で、顔が整っていて、開いているか分からない位の細目が特徴的だ。スラーっとした身体の細マッチョで手足が長く、サラサラした髪の毛の持ち主だ。こいつも俺と同じで、中学時代によく面倒事に巻き込まれていた。


「おはよう。怜。いつもより降りてくるのが遅かったわね」 


 この静かで穏やかな声の主は俺のもう一人の幼馴染である須夜崎美月姫すやさきみつき。身長は168cmと女子にしては高く、涼しげで整った顔立ちをしている。スラーっとした美脚と母さんに勝るとも劣らない大きな胸を兼ね備えているので、よく男子に告白されていた。だが美月姫は、身内には激甘なのだが、他の人には全く興味ない。それどころか、少しでも俺たちに抵抗する人たちや下品な視線を俺達か美月姫に送れば、罵詈雑言の嵐が冷徹な目で淡々と発せられる。なので、美月姫に告白した全員が全員、1・2週間程度寝込んでしまった。だがまぁ、俺には関係ないことだ。


「お前らを待っている間暇だったから本を読んでいたからな。それよりもう時間だ。行くぞ。」


「ん、もうこんな時間か。仕方ない、行きますか」


「じゃ、父さん、母さん。行ってきます」


「「おじさん、おばさん。行ってきます」」


「いってらっしゃい。気を付けてね」


「なるべく早く帰ってきなさいよ」


  そう言って家を出る。家から学校までは、20から30分位なので、俺達は徒歩で通うことにした。


「はぁ・・・・・」


「どうしたの怜?ため息なんかついちゃって」


「なんか嫌な予感がする」


「えぇ・・。マジか・・・。」


 この反応の通り、俺は昔から嫌な予感がしたり胸騒ぎが起きたりすると、大なり小なりいやなことが自分に起きる。今日は朝起きた時からあったので、雑念が多くてランニングに集中出来なかった。


「でも、それを気にしてビクビクしながら過ごすのもよくないわ。先のことを気にしても仕方がないから、胸を張って歩いた方がいいわよ」


「そ~だよ~。ビクビクしてる怜なんて似合わないよ」


 確かに美月姫の言う通りだな。仕方ない、胸張って歩くか。


「それもそうだな。仕方ない、胸張って歩くわ」


「それがいいわ。あ、もう着いたわね」


「そうみたいだな。はぁ、高校生活は静かに過ごせるといいんんだがな・・・」


「いや~それはむりでしょ~」


「だよなー」


はぁ、帰りたい。


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