天才に殺されて、天才に生き返らせられた。

雨のモノカキ

前編 俺の隣にいる

    1


 意気揚々と上京して、心は天下無双の侍なり。

 何物にも負けず、何者にも勝てる自身の塊なり。

 駅から数十分。

 我が一人で暮らすアパートを見つけたり。

 二階建て六部屋の小さな場所なり。

 一部屋八畳、風呂トイレキッチン付きなり。

 家賃二万なり。

 素晴らしきかな都会。

 今日からここが、我が城にして、人生の最初の起点なり。

 大天才漫画家『アジノユウヤ』の始まりの場所なり。


    2


 結論から申せば。

 俺は死んだ。

 この202号室の隣に住む203号室の存在に、俺は殺された。

 そいつは井の中の蛙にも及ばない俺という矮小な存在を、絶対的な才能を持って、屠りに来たのだ。

 文字も絵も、勢いも構図も、色使いも、キャラも展開も、何もかもが違う。

 人生で初めてだった。漫画雑誌を破り捨てたのは。

 物を大切にしなさいと、あれだけ心がけてきて初めての衝動だった。

 そして思った。


『なんで俺が生きてる時代にお前がいるんだ……』


 勝てない。

 俺が何をどう頑張っても、こいつには勝てない。

 悔しくて、何度も何度も作品を描いたのに、どれもこれもが届かない。

 俺は天才、のはずだった。



 こいつがいたせいで、おれのさくひんは、ぜんぶ、だめになった。



 何度も見ても面白くて、悔しくて、殺したくて、負けてしまう。

 そんな奴が、俺の隣にいる。


「ねえユウヤさん! これとかどうですか!?」


 今、俺の隣にいる。

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