第5話 友達になりましょう

 3日間いろいろと考えた末に、まずはマデライン嬢と仲良くなることを決めた。相手はもちろん警戒するだろうが、伯爵令嬢が侯爵令嬢からの友情を無下にできるわけもないため、ある程度接近することは可能だ。何のヒントもない状況下で、まずは情報収拾ということである。


 ここがゲームの世界であることと同時に、アイリーンは前世の記憶を少しだけ思い出していた。前世ではこの世界とは全く異なる衣装、異なる建物の中で暮らしており、このゲームを楽しんでいた。


 …のであればよかったのだが、実は前世の彼女は自分でゲームをプレイしていない。姉がプレイしているのを隣で見ていただけである。しかもあまり興味がなかったので、細かいところは覚えていないのだ。


 さらに、前世の彼女はよくある乙女ゲーム転生者のように早死しておらず、天寿をまっとうしている。つまり、ゲームを見ていた記憶が遠い彼方にあるのだ。


 「まずは、数少ない思い出したことを書き出してみよう」


 前世の記憶によると、確かマデラインはイーゴン王国に忠誠を誓うために、とあるアイテムを所持していた。それが何だったのかは思い出せないが、ゲーム中でどこかにそれを隠す場面があった。彼女の周囲からそのアイテムを見つけ出せば、まずは彼女が敵国の兵士であることが証明できる。


 あとは、スパイ活動をしている証拠である。これについては、何かあったはずだが、思い出せない。前世の記憶はだんだんと鮮明になっていくようなので、この問題は一旦置いておくことにした。


 「イーゴン王国の者であるというだけで、ヨハンス様に警戒心を持たせることはできるはず。まずはそのアイテム探しね。」


 記憶がすべてよみがえるのを待てば、すべての謎が解決するかもしれない。しかし、時間を無駄にするわけにはいかない。できることから始めなくては。


 次の日、アイリーンはさっそく行動に出た。


 「マデライン嬢、おはようございます。」

 「えっ…アイリーン様。おはようございます。」

 「どうかしたかしら?」

 「い、いえ、まさか話しかけてくるとは、じゃなくて、お声をかけてくださるなんて、思ってもみなくて」

 

 アイリーンとマデラインは、これが初めての会話である。アイリーンは優しく微笑む。


 「最近、私の婚約者であるヨハンス様と仲がよろしいでしょう?婚約者として私もあなたとお友達になりたいと思って、お声がけしたのよ。」

 「こ、光栄にございます…。」

 「これから、よろしくね。」

 「はい、ぜひ。」


 まずは話しかけることに成功したアイリーンは、胸をなでおろした。本当は、ヨハンスの心を奪っている女性に声などかけたくはないが、気持ちをぐっと抑え、笑顔で対応できたことに、自分で自分に拍手を送りたい思いであった。


 しかし、これが悪手であることをすぐに知ることになる—。

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