悪役令嬢、世界を救う!

空沢小羽

第1話 断罪の悪夢

 「アイリーン=フォン=クラウゼ!君との婚約を解消し、君に国外追放を命ずる!」


 学園の講堂内に響く、ヨハンス第一王子の声と、それを受けての貴族たちのどよめき。その中心にいるのは、侯爵令嬢アイリーン。


 ヨハンス王子に寄り添う伯爵令嬢マデラインは目に涙を浮かべながらも、王子にすがるような目線を送っている。それもそのはず、この断罪はマデラインによる、アイリーンのいじめ行為の告発に端を発しているからである。


 侯爵令嬢と伯爵令嬢では、前者のほうが階級が上である。加えて、マデラインは伯爵家の養子であり、もともとは平民なのだ。それにつけこんで、アイリーンがマデラインへ嫌みを言ったり、果ては集団で罵詈雑言を浴びせるなどの行為を行なったという。


 「大丈夫だよマディ、心配しないで。僕がついているから。」


 マデラインに優しくほほえむヨハンス王子は、次にアイリーンに厳しい視線を向ける。


 「君がそんな人間だとは知らなかった…。君のことを愛していたけど、それも冷めてしまったよ。アイリーン、なぜこのようなことをした?」


 アイリーンは言葉に詰まる。なぜなら、全く身に覚えがないからだ。


 「いじめ…?一体、何のことをおっしゃっているのかしら。」


 記憶にない行為に対して、理由を求められても困る。そうして黙っていると、ヨハンス王子が再び口を開いた。


 「言い訳もしてくれないんだね、アイリーン。君は昔から気高くて品のある、令嬢の鏡だったじゃないか。どうしてこんな卑怯なことをしておいて、しかも説明すらできないんだい?もう僕の愛した君ではないのか?」


 あなたこそどうしてそうなってしまったのか。アイリーンの目に涙が浮かぶ。確かにあなたと私はお互いを愛していたはずなのに。今の彼は、すっかりマデラインに心を奪われているのである。


 身に覚えのない罪で裁かれることよりも、愛するヨハンスの心変わりのほうが、アイリーンにとっては悲しいことだった。


 「わたくしは…いじめなどしておりません。何かの間違いでございます。」


 ようやくアイリーンが答える。


 「わたくしのことは、あなたが一番よくご存知のはずですわ、ヨハンス様。いじめなどという汚らわしい行為をしようなどと、わたくしは夢にも思ったことがございません。」


 「マディが嘘をついているとでも言うのか?僕の最も愛する…、いや、最も信頼するマデラインが嘘をつくはずがない!」


 ああ、もうダメだ。私が何を言ってももう、届かないのだ。


 ふと、マデラインがかすかに口角を上げながらこちらを見たのに気づいたが、今さらそれを指摘したところでどうにもならない。


 こうしてアイリーンは、婚約破棄と国外追放を受け入れたのである—。

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