葬式のあと女の子拾った

@poplidflu

第1話 妹の葬式のあと、女の子を拾った

 葬式は雨だった。妹の好きな天気で良かったと思った。俺は一人で遠回りして帰った。あ…ずいぶん前に妹と遊びに来た公園だ。散歩してから家に行こうか。そのとき、女の子を見た。赤いかさをさして黄色い長ぐつをはいて、まんまるの目でこっちを見つめている。見つめて離さない。その場に捉えられたままでいると、その子は後ろのダンボール箱にまたいで入った。『拾ってください』ふにゃりとへの字に曲がった口は固く閉ざされたまま、ただ俺を見つめていた。何か大きなかなしい衝撃が起こるとあるだろう、判断能力か何やらが一時的に下がってしまうことが?俺はきっとそんな状態にあって、そのぱさぱさのくせっ毛の女の子を拾ってしまった。

 家は、何年も人が住んでないみたいに静かで、俺が着くと母さんが一瞥して小さな声で「おかえり。」と言っただけだった。拾った子をきれいにしてあげてほしかったけど、「なんでこんなときに!」とヒステリックを起こすかもしれなかったからたのまなかった。うちの母はそういうタイプではないと思うけど、何しろこういうとき人は少し変わるから。俺はドライヤーでその子を乾かすだけ乾かして、ごはんをあげた。ぬるくあたためた牛乳と、缶詰から出しただけのグリルチキン。その子は何もしゃべらなかった。

 衝撃によってずれていた俺の感覚がちょっと戻ってきたころ、その子は母に洗われた。それまで風呂に入れていなかったからにおっていただろうに、あまり鼻についていなかった。やっぱりこれも、衝撃のせい。母は、きれいになったわよ~としか言わなかった。俺は、幻覚をみてるんだな。この子は捨てられた猫で、妹に起きたことを受け入れられない気持ちと乗り越えようとする気持ちの折り合いで、妹と同い年くらいの、でも妹じゃない女の子に見えているんだ。もしかしたら妹が猫の姿になってきてくれたのかも、いや妹は仏になるんだから、いやこれは現実か?実感がない…。そんな思いをぐるぐる抱えている間も、時は過ぎていった。

 その子は妹を亡くした時の俺と同じ年になった。その子は人生の3分の2をうちで過ごしたんだ。その子は学校に行きたいと言い出した。

「夢があるの」

「美容師さんになりたい」

お金がかかるんだ、その費用をどうしようという。ちらとこちらを窺っている。妹を思い出した。

「妹はピアニストを目指してた」

「へえ…でもあたしは美容師さんがいい」

返事をしない俺に言った。

「ねえ、あたしに妹みたいになってほしいわけ?しらない、あったこともない人の夢を追えっていうの?」

顔が熱くなるのを感じた。どうして

「自分で稼げばいい」

「ええっ、あたしの夢を応援してくれないの。」

靴を履く。こんな

「ねえ、ピアノもやるから。それならいいよね?」

玄関にかけた湿っているかさをと取る。嫌な奴

「あたし一人の夢も応援できないのに妹なんか守れるわけなかったんだよっ!」

俺はうちを出て、そのまま帰った。さっさと湯船に湯を張って、浸かりながら葬式を思い返した。どうしてこんな嫌な奴、拾ってしまったんだ?

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