第41話
まだ不確かな状態でレオンのことを話すのはどうなんだろう‥。要注意人物であるという認識は持ってもらっていた方がいいんだろうけど‥。
でも、テッドはさておきノエルはレオンに対して普通に対応できるかしら。
もしもレオンが本当に猫だったとして‥テッドやノエルがそれを察していると猫が知ったら、2人をとても邪魔に思うのでは‥?
魔女の目的が私だとしたら、魔女にとって私の周囲の人物は居ても居なくてもどちらでもいい人たち。つまり‥私の周囲の人々は簡単に殺されてしまう可能性があるということ。
むしろ周りを殺すことでリセット魔法を使わせるという手もあるかもしれない。
レオンが猫ではないという可能性もゼロではない中‥もしもテッドとノエルがなんとかレオンを殺したとしたら‥?彼が猫ではなかった時、取り返しがつかないことになる。
やっぱり‥2人に言って楽になりたいけど、言った後のデメリットばかりが頭をよぎってしまう。
「皇女様‥大丈夫?」
「ええ‥大丈夫よ。‥‥猫は私が見る限り魔法は使っていなかったけど‥私が知らないだけで魔女から何らかの力は授かってると思うわ」
「そっか‥」
今はまだレオンについては話さないでおこう‥。少なくとも本当にレオンが猫なのかが分かるまでは言わないのが吉なんだと思う。
テッドが私の首元をじっと見ていた。思わず首を傾げると、テッドは私の視線に気が付いて小さく「あ‥」と溢した。
「どうしたの?テッド‥」
「その、皇女様の首に痕が残らなくて良かったと思いまして‥」
「あぁ‥‥そうね。リセット魔法のおかげだわ」
ーーーーーーーーあれ‥?
どくん、と心臓が跳ねた。違和感に気付いてしまった。
リセット魔法をかけてその日の朝に戻ったのだから、私が首を絞められた跡が消えるのは当然。
それなら‥‥‥猫に付いている筈の私が抵抗した傷も普通は消えているものなんじゃないの‥?
ということは‥‥傷が残っていたレオンは猫じゃない‥?
あれ‥?本当に‥?でも‥それならミーナの話は‥?
ノエルに殺された時にもリセット魔法で蘇っていたのだから、レオンも間違いなく朝に戻っている。
それなら‥猫につけたはずの私の爪痕も朝には消えているはず。
きっと‥‥ミーナは“皇女を殺しかけた”という自責の念から、精神が不安定になっているのよ。だからレオンを疑ったんだわ。レオンは魔女の手先でも何でもなく、純粋に皇女付きの騎士なのよ。うん。きっとそう‥‥。
ーーー‥本当に?
そうやって話をまとめるのが一番楽だから、信じ込もうとしてるけど‥本当にそれでいいの?
もうひとつ可能性があるじゃない。
『朝に戻っても、私がつけた傷はそのまま持ち越される』という可能性が‥。
私は顔に手を置いて項垂れていた。テッドとノエルはそんな私にどう声をかけていいのか戸惑っている様子だった。
何も知らない哀れで弱い皇女だったから魔女に付け込まれていたんだ。何をされても困惑して恐れて泣き喚いていたから、魔女の好きなようにされていたんだ。
人を信じるのは容易いことではないというけど、本質を見抜こうとせずに上辺だけの幸せを感じようとするならば、決して難しいことではない。信じてしまえば疑わずに済むから、楽なんだ。
だけど私は、もうそのぬるま湯に浸かったままではいられない。
少しでも違和感を覚えたならば、もうその違和感を無視するのはやめよう。違和感を無視したせいで10年前のあの日に魔女に体を奪われたのだから。
簡単に付け込まれないように、疑り深くなろう。だって幸いにも今回は確かめる術がある。
ーー敢えてレオンに傷をつけて‥リセット魔法をかけてしまえばいい。レオンをよく観察したあとに傷をつけてその場でリセットをかけ、すぐに確認する。
それだけでレオンが猫なのかも、私が付けた傷が持ち越される可能性があるのかも、全てハッキリする。
本当はもうできる限りリセット魔法を使いたくはないけど、こればかりは仕方ない。レオンが猫かどうか確かめるのは必須。
‥問題はどうやってレオンに傷をつけるのかよね。
この間は首を絞められたから必死に抵抗したけど‥そもそも普段誰かに傷をつけてやろうと思ったことはなかったし。
相手は騎士なのだから、刃物なんかを持っていたらすぐに取り上げられてしまいそう。戦うこと前提ではまず勝ち目はないわ。
とはいっても突然爪で引っ掻くのもおかしな話だし。まぁリセットしてしまえばそれまでなんだけど‥引っ掻くだけでは痕が残らない可能性もある。
かといってこの間みたいに、爪をギリギリと食い込ませたところで途中で抵抗されるに決まっているし‥。
猫は魔女に制御されているみたいだけど、私からあからさまに攻撃を仕掛けたら猫のリミッターが外れて呆気なく殺されてしまう可能性だってある。
‥‥となると、あの方法が一番有効かしら‥。
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