第47話 会議2

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会議が始まる10分前に、学年ごとに別々の円形テーブルに座るように促された。テーブルの周りには、やや大きめのパネルが囲むように設置されていた。パネル越しからは他学年の様子が見えず、防音仕様になっており、普通に聞けば隣からの話し声はよく聞き取れない。


「コホンっ、えぇ~本日は、急ぎの会に足を運んでいただきありがとうございます…。わしが校長の円谷幸吉です。どうぞお見知りおきを…ホッホッホ」


のそっと立ち上がり、一年の集まりに加わることになった円谷校長が、テーブルに座る一学年生徒を見渡して挨拶をした。


「円谷校長先生。質問があります。なぜ学年ごとに分けて話し合いをすることになったのでしょうか」


すっと手を挙げた青柳が質問をする。


「青柳君…それはね、各学年ごとに話し合う必要になったのじゃよ…最初は学年ごとの話し合いを行って、最後は全学年での話し合いに繋げていく…大雑把にはそんな感じじゃよ」


「…なるほど、質問に答えていただきありがとうございました」



____



そのまま校長からの前置きの話が続けられる。


「…ちょっと」


すぐ右隣に座っている涼から二の腕を指でツンツンと当てられる。


「どうした?」


顔は校長に向け、体だけをこちらに向け、お互いに小声で話し合う。


「…なんか青柳くんって人…苦手かも…」


「おい、そんなこと今話すことじゃないだろ」


「だって…あの人、私の事ばかり見てくる気がするんだぁ…」


自意識過剰だと、会話の流れからそう思うかもしれないが、涼の勘は的中している。この会議が始まる前、オレと話している間や他の生徒と話しているときも、時折青柳は目線を逸らし、涼の方を見ていた。


「さて…こうして新一年生の顔を近くで見るのは初めてかもしれんのぉ~なんだか儂も若いころに戻りたいと思えてきたわい…ほっほっほ!」


「円谷校長先生。僭越せんえつながら話し合いするにあたって司会進行役を務めさせていただいてもよろしいでしょうか」


円谷校長が今まさに脱線した話をし始める直前、話の流れが逸れないように青柳が進言した。


「もちろんじゃよ。最近の若い者はしっかりしとるのぉ~さてと…ここは若い子に任せて老いぼれの儂はゆっくり静聴せいちょうするかのぉ~」


そう言って席に座り、変わって青柳が席を立った。


「初めまして。勝手ながら司会役を務めさせていただきます。一年一組学級委員長の青柳学人といいます。よろしくお願いします」


パチパチと拍手が上がり、すぐに虚しくなっては青柳から議題について話される。


「まず各席に置かれた資料に目を通してください。簡単な議題でありますので、すぐ話し合いの時間を設けます」


手元の資料には学年ごと、全学年での議題が記載されていた。


学年ごとでは

・各々のクラス事情について

・7月の試験に向けてのクラスの取り組み


全学年ごとでは

・高等教育高の取り組みについて


どれも身もふたもない議題だなと思いつつも、他の生徒がどのような意見を持っているのか気になる。


「では一つ目の議題に入っていきたいと思います。一年一組から話していきます。学級委員長である僕の視点から言いますと、真面目で誠実な人が多く、協調性を大事にする印象が強く見受けられます。しかし相手の意見に流されやすく、個性が薄い欠点もあります。その欠点を改善していくためにも、僕たち学級代表委員会が先導して他のクラスや他学年への交流を深めていく機会を設ける必要があると思います」


淡々と自分の意見を話していく姿勢は、高校生離れした人間そのものに見えた。


「そうかぁ~?俺にはそう見えないけどな」


三組グループの明日人から反対意見が上がった。


「お前らは自分たちのクラスを大事にするあまり、他クラスとの接触を拒んでいるように見えるぜ?」


「…君は三組の小笠原明日人君だね。僕はそうは思わないけど、理由を聞かせてくれないかな」


「…まず、ここは他の高校とは大きく違うのはもう気付いているよな。去年から劇的に制度が変わっているし、 それこそ特定の先輩や先生らに色々聞かない限り、ただ豪華な学び舎って解釈で終わるはずだ。普通に学校生活を送っているという考えを持っている生徒なら、なおさら気づかないだろうな。…他学年や先生ら、ましてや他クラスとの接触がほとんどない一組だけがその異変に前々から気付いているなんて妙な話だ。おまけにこの高校の試験は馬鹿みたいに難しいらしいぜ。今の時期から先輩から過去問をもらって勉強しねぇととやべーって話だ。俺にも一組の知り合いは数人いるが一組全員が過去問の存在なんて知らないってよ。どうもこうもおかしなクラスだ」


明日人からこの高校と一組の異様さについて述べられた。と、同時に円谷校長の思惑につながる部分に触れるものもあった。


まず県立高校だというにこの高校は優遇され過ぎているのは、まさに周知の事実。普通に考えておかしすぎる。


校舎をあたかも外部の者から隔絶するように設置された巨大な塀や正門。学生が伸び伸びと能力を伸ばせる様々な運動場。私立図書館並みの蔵書数を誇る図書室など。おまけに円谷校長の関係者しか知らないであろう地下室まである。不自然なことに銀二の書斎にある地下室と全く同じ構造になっており、外から3D構造機能を使って読み取ることは不可能な仕様であった。銀二のやつと違い、規模が段違いで大きく、まだ調査中なため、どんな用途で使われているのかは不明だ。


他にもまだおかしな点がある。去年円谷校長が就任してからの実際の進学率データを参照してみると、決まって『ある共通点』があったのだ。


学級代表委員会と生徒会に所属していた生徒全員が、円谷校長の出資金で設立された私立大学へと進学していたのだ。


円谷校長との距離が近い生徒は何かしらの事情で、決められた大学へと進学されることになっているらしい。


これを知った時は流石に違和感しかなかった。このことは表向きは公表されていなく、調べるにはかなり苦労したものだ。その大学に接近することは愚か、OGやOBと連絡をとることすら悟やミリーの情報網を駆使しなければ知ることはできなかった。


初めてこの高校に訪れてから抱いてきた違和感。どこかの訓練場を彷彿とさせるような、無機質な校内。あの時のことと何か関係があるのは間違いない。だからこそ問題の火種が小さいうちに、SSFが活発に動いていたのかもしれない。


「そっか。貴重な意見をありがとう。正直そんな風に見えていたなんて少し残念だよ。ちなみに三組はどんな感じかな」


ポーカーフェイスを保ってはいるが、青柳はやや困惑しているようだ。


「ん?あぁ、オレらのクラスは一組と全くの逆だな。他クラスとの交流はもちろん、他学年との繋がりは一学年の中でもずば抜けて高いほうだろうな。過去問の入手や進路の話、プライベートな情報までたくさん入ってくるほどだ。個々人の学力や運動面は一学年の中では平均的だと思うが、不足する能力を協力して補っていける最高のクラスだ」


「確かに三組が幅広く交流している姿はよく見かけるよ。さて…順番通りではなくなったけど、二組はどうかな」


「…え、あ、はい!」


青柳への返答が遅れた宮田は先ほどから浮かない顔をしている。

きっと明日人の話を聞いて、頭の処理が追い付かなかったのだろう。完全に白である宮田には知りえない、円谷校長に関する裏の情報だ。明日人のせいでそれが表に出されることになってしまったが、普通に高校生活を送っている彼女には何のことかさっぱり見当がつかないはずだ。


「…二組のみなさんは真面目で思いやりや優しさを強く持っており、とても和みやすいクラスです。この場にいる弓さんや涼さん、陸人さんと一緒に学級代表委員会として、二組の一生徒として学校生活を送れることができて嬉しい限りですわ」


宮田の発言から間が立たずに、榎本が口を開いた。


「ふーん。ま、二組がどんなクラスかは分かったけど、それはあくまであんたの主観的な考え方なんじゃない。思いやりや優しさもないクラスメイトはどこのクラスにもいるし、この場でいいとこだけ取り上げて言うのは、はっきり言って場違いよ」


またしても三組グループから反対意見が上がった。


「…中にはそういう方がいらっしゃるかもしれませんわね。榎本さんのご意見はもっともですわ」


「そうそう、あんたみたいなプラス思考しか頭にない人が学級代表委員会を務めること自体間違っているわけ。先導して立つ人間はプラスマイナスの考えを十分に持ち合わせないとやっていけないし、下の者も有効に活用しないとね。そんなこと、あんたには到底できないだろうけどね」


「…下の者を有効に活用、ですか。同じ高校生とは思えないくらい、すごいことを言い出しましたわね」


「そもそもこの高校に入った時点で、大人な考え方に移行し始めなければならないのに、あんたみたいな幼稚な人間が台頭して周囲を馬鹿にしていくのよ。それは自覚しているわけ?」


「……」


みんなの前で何の躊躇ちゅうちょもなく、宮田を罵倒し続ける。この場で誰一人彼女を止める人はいない。宮田と仲が良い涼や弓たちは宮田を助けたいという気持が顔には出ているが、榎本の強い主張に付け入るスキがなく、じっとしている。おまけに円谷校長と青柳はただ静かに目を閉じて傍聴するだけで、止める造作は微塵みじんもない感じられない。


確かに榎本の言っていることは正しい。大人、特に社会人になれば能力のない人間は次々に落とされていく。実力がモノを言う社会だ。企業らが利益を出すために能力が高い人間を使い、使い物にならない人間は解雇させる。何もかも楽観的に仕事をこなせるケースは極わずかであり、頭を使い、相手を出し抜く術を持つ人間が優秀な者として台頭していくものだ。


「…そうですわね。いつまでも幼稚であるわけにはいきませんわね」


「分かればいいのよ。だけど分かったからと言って、考えを改めこれから頑張っていきます…みたいなのはやめたほうがいい。そんなんなら今すぐにでも降りるべきよ」


「あなたは余程私のことが嫌いなようですわね。まぁ…この場で気にするだけ無駄でしょう。…そうですわね。あなたの意見は正しい。私の考え方とかなり逸脱した考えで気に障る部分が多いですが、生徒たちの上に立つ存在としては十分ありなのでしょうね。ですが…」


「…宮田さん、それがお主の弱さじゃよ。引きなさい」


宮田の話を遮り、意外なところから円谷校長の不意打ちをくらう。


「…こ、校長先…生…!?」


驚きと畏怖の顔を浮かべる。


「学校は子供を大人へと成長させる施設じゃよ。能力が上の者は上へ、下の者は下へ…この階級社会においての常識じゃ。お主ら子供らは戦争や飢餓に苦しむ経験をせず、平和ボケした生活をしている。それがどんなに幸福な生き方なことか…。この高校だって何一つ不十分なく生活できるように儂がしたのじゃ。言わば儂の国みたいなもの。この場においてすべての権限を持つ儂が選別した者にのみ、この高校に入学させ、儂が選別した者にのみ、上の階級へや下の階級へと格付けさせる。儂も教育者じゃよ…自分よりも下の者に様々なことを教え、成長させていく義務がある。…家畜のように育てる義務がな」


宮田の顔がどんどん暗くなっていく。家族や周囲の人間と仲の良い関係だけを築き上げてきた人生、人への関わりの黒い部分を見て見ぬふりをしてきた彼女は、辛い現実を目の当たりにした。


「宮田さん…」


涼や弓が席を立ち上がり、静かに宮田に寄り添う。


「…耳に入れづらい話だったね。だけど宮田さん……比較的早い段階から現実を知れてよかったと思うべきだよ。何も知らないまま生きていくことは逆に辛いことだからね」


青柳から励ましをもらったが、今の宮田に届いているは分からない。


「さて、じゃあ最後は四組だね」


何食わぬ顔をし、宮田を放って、青柳は話し合いを優先させた。人の気持ちを理解しているのか、はたまた無視しているのか、よく分からない人間だな。



やはり…この会議は異常だ。この場に限らず、ここにいる円谷校長や他の生徒も普通ではない。



特に青柳という人物が一番気がかりだ。



表と裏を上手く使い分けている非の打ちどころのない性格。一見細身だが尋常ではないほどの筋肉密度。相当腕が立つのは間違いない。


一般生徒と違ったオーラは隠しきれておらず、円谷組織のメンバーである可能性が非常に高い。


悟とミリーの情報網を辿っても知ることができなかった青柳学人という男のバックグラウンドは、謎に包まれている。唯一分かることと言えば


『候補生』という枠で入学してきた経緯もなく、かと言って円谷校長に付き添いで護衛している『護衛役』ではない。



『刺客』という枠に位置しているSSFの強敵だ。




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