第38話 あの子とこの娘とそして君もなの? ACT 4

「汝はその供物を我に差し出すべし」

耳もとに熱い息をかけるようにその声は聞こえた。


ふわっと、甘い香りが洟から抜ける。それと同時にさらさらとした髪がほほに触れた。

「うむ、美味なるぞ! さすがカノ英雄とうたわれたことだけはある」

「あのぉ……、いい加減その手放してもらえませんか?」

この声、そしてこの中二病的な言葉。間違いなくあの子だ。


「えへへ、笹崎先輩このお弁当誰が作ったんですか? まさか、恵美先輩じゃないですよねぇ―」

にっこりとほほ笑んだ顔が視界全体を覆いつくす。

「じ、自分で作ってきた弁当だよ」

「そうですよねぇ―、恵美先輩お弁当なんて持ってきたことないですからねぇ―」

「なんでお前がここにいるんだ。それに卵焼き、勝手に食いやがって」


「いいじゃないですかぁ。購買で二人の事目にしてからずっと後おってきたんですよ。多分恵美先輩は音楽室だと思うんですけどね。あ、そうそう、今日私、お弁当忘れてきちゃったんですよねぇ―、そのお弁当私に分けてもらえると嬉しいなぁ――――、何てね。大丈夫です。さっきいただいた卵焼きで、ものすごく美味しいお弁当だということはわかりましたから。それにやっぱり卵焼きは甘くなくちゃいけませんよねぇ――――せ・ん・ぱ・い」


「はぁ? なんだ! 弁当が欲しいっていうのか?」


「うんうん、そうです。先輩の手作りお弁当堪能したいんです。お願いしますよぉ――。でないと私あの暗黒神と戦うことが出来なくなります。いいんですか? 私がこの世界から消滅しても? それに前世で永遠の契りを交わした仲じゃないですか。そのお弁当をこのか弱き私目に献上しても何ら問題も起きませんですわよ」


「あのぉ――――、すげぇ、世界観がごちゃ混ぜなんだけど。前世では俺はお前の伴侶なのか?」

「いやいや、伴侶などと言うそんな甘い関係じゃございません。私はあなたの一部だったのですから」

と、言う間にあっさりと弁当を取られ「いただきま――――す!」と口にほおばる彼女。


そう、この子は吹部の乃木満里奈のぎまりなていう子だったはずだ。

あの時はいきなりキスをしてきて、恵美に誤解されて散々だった。

思いっきり往復ビンタされた。その記憶しかない。

その彼女がまた突如現れ、今まさに僕の弁当を美味しそうに食べている。


「ほんと笹崎先輩って料理上手いんですねぇ。さすがです」

す、すばやい。

仕方なくさっき買ったパンをかじろうとした時、飲みかけのペットボトルのジュースを手に取ってごくごくと飲み始めた。


「それって、口付けてるんだけど……」

「そうですか。それが何か?」と言いにっこりと笑う。

「ま、いいか。本人がいいのなら。別に気にしない子なんだろうな」

あむっと、パンにかじりついた頃には、すでに彼女は弁当を空にしていた。

「ああ、美味しかった。ごちそうさまです。先輩」

「それはお粗末様でした」


「先輩はそのパンだけで足りますか?」

「さぁどうかな? ま、足りなければ帰りに何か買って食うから別にいいけど」

「そうですかぁ―、まだ時間ありますから、もう一品召し上がりますか?」

「へっ? もう一品って何があるんだよ?」


「それは……」ちょっともじもじしながら

「わ・た・し・です。……けど」

「ぶっ!」

おいおい、何言ってんだ。またこの子は。


「まだ時間あらありますから、十分に食べることできますよ。えへへへ」

にまぁ―とした顔をしながら、肩を寄せて体をすりすりとこすってくる。

「いいじゃないですかぁ――、もうこの世界ではキスはしてるんですから、その先に進んでも大丈夫ですよ」


そう言いながら、タイを外し、ブラウスのボタンを一つ、そしてま一つと外していく。

3つ目を外すとブラが見え始める。


「ほら、ここは誰も来ませんけど、見つかるといけないので隠れ家へ行きましょうか先輩」

「か、隠れ家って」

「秘密の場所です」

「秘密の場所ってそんなとこあんのか?」

「ありますよ。ちゃんと用意してあるんですから。特別な空間を。二人っきりになれる異世界空間です」


おいおい、ちょっとまずいんじゃねぇ。この展開ていうかこの雰囲気。

間違いなくこの子は誘っているけど、なんで僕なんだ?

何がよくてここまで言い寄ってくるんだ?


「ねぇ先輩。しましょうよ。いいんですよ先輩の好きなようにして、この体」

はだけたブラウスの中から胸の谷間が現れる。白のブラにこんもりと盛り上がるその谷間。

同年代のこういう体は正直今まで見たことが……って、ちょっと落ち着け。


多分手を出したら負けと言うこれはゲームじゃないのか? この子はただ単に僕をからかっているだけなのかもしれないし。

も、もしかして、ここで手を出したら、そのこと恵美に言いつけたりして。

それってものすごくまじぃんだけど!!


「待て待て、そんなことやってる時間なんかもうないぜ!」

な、なに言ってんだ!時間の問題じゃねぇだろ。


「あれま、そうなんですね。笹崎先輩もしかして童貞じゃないんですね。もう経験済みなんですねぇ――」

「な、なんでだよ。なんでそんなことわかんだよ」


「だって、セックスって時間かかるんですよね。残りあと10分じゃ無理ですよね」

「無理って……」

「だって本にそう書いてありましたよ。あ、早い人ならできるのか?」

「そ、そう言う問題じゃなくて……」


「あははは、なんか困っています? そうですよねぇ――。でも私もやったことないんでそこんとこよくわかんないんですけど」

「はっ! やったことないってバージン?」

「そうですよ。当たり前じゃないですか。本当に好きな人とじゃなきゃ、しませんよ。セックスなんて」


「ほ、本当に好きな人?」


「あ、言っちゃいました」

彼女は顔を染めながらまじめな顔で言う。



「私、笹崎先輩の事――――好きなんです」

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