第59話 ああああ
みんなはテレビゲームってする?
するなら主人公の名前ってどうしてるかな。
私はちゃんとつける。
まあ、自分の名前にするだけなんだけどね。
ナルシストって言わないでよ。
理由はちゃんとあるんだからさ。
昔はね「ああああ」ってつけてたの。
あれ、知らない?
ファミコンとかスーファミのRPGって、平仮名か片仮名の四文字しかつけられないんだよ。
…………年齢がばれるとかいうな。ぶん殴るぞ。
親戚が古いゲームハードを持ってて、それをもらったんだよ。
で、小さい私にとって、名前を考えるのは面倒くさかったんだ。
何分もかけてキャラクターにあった名前を考えても、少し時間が経ったらなんか違う気がしたり、兄弟とか親戚に自分のつけたオリジナルの名前を見られるのって恥ずかしかったんだよねぇ。
だったらいっそのこと「ああああ」でいいんじゃないかって。
名づけの必要があるやつは全部それにしてた。
やめたきっかけは、小学校三年くらいの時だったかな。
ある日、朝起きたらお母さんが私のことを「ああああ」って呼ぶんだ。
やめてよって言っても「なにが?」って不思議そうにしてて。
これは多分ふざけてるんだなと思って、登校時間も迫ってたしもう気にしないことにして家を出た。
でもね、お母さんだけじゃなかったんだ。
近所の人たちや学校の友達、先生もみんなが口をそろえて私のことを「ああああ」って呼ぶの。
いたずらにしては度を越してるでしょ?
私が「〇〇」だよって自分の名前を言っても「だから“ああああ”でしょ?」ってみんな首を傾げるの。
わけがわかんなくて気味が悪くてすっかりまいっちゃった。
だから一時間目の途中で仮病を使って保健室で横になったんだ。
家に帰らなかったのかって?
だって、家に帰ったらお母さんがいるんだもん。
もし「ああああ、どうしたの? どこか具合悪いの?」なんて訊かれたらって考えると、どうしたらいいのかわからなかったんだよ。
幸い保健室の先生は私のことを知らなかったから、名前を呼ばれることもなかったんですぐにベッドにもぐりこんでそのまま寝ちゃった。
それからどうしたって?
それで終わり。
…………うん、そうだね。夢の話だよ。
そんなに怒んないでよ。
自分では現実の出来事だって気はするし、それくらいリアルだったのは本当だよ。
でも、保健室で寝て目が覚めたら家のベッドにいたんだもん。
しかも朝になっててお母さんが「朝だよ」って呼んでて。
名前はもちろん「ああああ」じゃなかったよ。
私がほぼ一日保健室にいたってことも誰も知らなかったし。
日付は……どうだったかな?
そういった曖昧なことも含めて「夢だったんだろうなぁ」って思うようにしてる。
昔、不思議な出来事があった気がするよって話。
もっと怖い話を期待してた?
あっはっは、それは残念。ごめんね?
でもさ、想像してごらんよ。
ある日突然、周りの人が自分のことを「ああああ」って呼び出すの。
しかも何の抑揚もなくて、電子音みたいに「あ」「あ」「あ」「あ」って一音一音はっきりと発音するんだよ。
みんながみんなまったく同じ呼び方。
私は吐きそうなくらい気持ちが悪かったよ。
だからさ、私はゲームでも何でも自分の名前をつけることにしてるの。
もう二度とそんな呼ばれ方はされたくないからね。
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