第50話 砂山のトンネル
冬の海辺で砂遊びをしていた。
浜辺の砂をかき集めて大きな山を作り、中央にトンネルを掘っていく。
やがて指先が山の反対側へ抜けると、ちょんちょん、と何かに手を触られた。
びっくりしてトンネルから腕を引っこ抜いて、中をのぞき込む。
すると穴の向こうから誰かがこちらを見ている。
立ち上がって山の向こうを確認しても何もいない。
トンネルの中からクスクスと小さな笑い声が響いてきて、穴をのぞけば今度は細い手がちょいちょいと手招いている。
あちらがわに手を伸ばそうか迷っていると、背後から名前を呼ばれた。
「暗くなるから帰るよ」
母のその言葉に海の方へ視線を戻すと、今まで真っ青だったはずの空は薄紫色に変わり夕日が水面に沈み始めていた。
足首は満ち潮につかり、その傍らで砂山が波にさらさらとさらわれていく。
唐突な時間の変化に茫然としたまま、私は母に手を引かれて砂浜を後にした。
幼少時、とある日の不思議な体験である。
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