第45話 穴の中の首

 小学二年ぐらいの頃、共働きの両親の出張が重なってしまい、私は二日間だけ叔父夫妻の家に預けられることになったことがある。


 そこには使われていない大きな畑があり、マンション暮らしで庭のように広い遊び場に憧れていた私は、一人土まみれになりながら夢中で遊んでいた。


 ふと『落とし穴』を作ってみようと思いついた。


 ちょうど目印になりそうな直径三十センチほどの大きな石が転がっていたので、その傍らに穴を掘っていく。


 すると、黒く大きな毛玉のようなものが出てきた。


 中から取り出してみると、なんと人の首である。


 驚いた私は首を放りだして、家に駆けこみ、叔父夫妻に訴えた。


 叔父は震える私を家に残して畑に向かったが、しばらくすると畑から呼ぶ声がする。


 叔母に連れられておそるおそる行くと、「何もないぞ」と呆れ顔で叔父が言う。


 そんな馬鹿なと穴の中を覗いても何もない。


 結局、風で飛ばされてきたゴミか枯れ草を見間違えたんだろうと結論付けられ、私はかすかな違和感と納得いかなさを抱えたままその日は布団に入った。


 夜半、昼間の件でモヤモヤと寝付けなかった意識がようやく沈みかけた頃、脳裏に一筋の光が走った。


 ぼんやりと抱いていた違和感の正体に気づき、私は思わず声をあげた。


――穴の位置が違う。


 私は、目印にした石を正面に見て、右側に穴を掘った。


 しかし、叔父に呼ばれ畑に戻った時、穴は石の左側にあったのだ。


 翌朝、叔父夫妻が出かけたのを見計らって、畑に行った。


 穴は埋められ、周囲の土もならされていたが、記憶を頼りに穴のあった位置を触って確認してみると、土の柔らかな場所が石の左右に二か所ある。


 両方を掘り返したが、首を見つけることはできなかった。


 やはり見間違いだったのだろうか?


 しかし、それなら何故、叔父は元あった穴を埋め、新しく掘った穴を私に見せて「何もない」などと言ったのか。


 不可思議ではあったが、子供心に理由を探ってはいけない気がして、心の隅にしまい込むことにした。


 現在では、叔母夫妻は畑のあった土地を売り、とある企業の社員寮が建っているらしい。

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