第28話 隙間女
注記:
これは、Aと言う大学生に、友人のBからかかってきた、とある通話の内容を文字におこしたものだ。
録音内に入っていた物音は( )で記している。
Aの話している部分に関しては、意図的に省かせていただいた。ほぼBがまくしたてていてAの声と被っている個所が大半なため、彼の言葉まで記述すると非常にテンポが悪くなることと、こうした方が通話時の雰囲気をより伝えられるのではないかと考えたからだ。
そのため、会話の流れで必要だと判断したもののみ、物音と同様に( )内に書き出している。
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もしもし、もしもし! (Aの名前)か? お前だよな!?
くそ、ふざけんなよお前ら! いたずらにしてもやり過ぎだろうが!
いい加減にしろよ!
他の連中もそこにいんのか!? どうせこれ聞いて笑ってんだろ!
くそが!
(ドスドスと歩き回る足音)
ひっ!
(沈黙)
(息遣い)
なあ、なあ、もういいよ。降参だからさ。いい加減やめろよ。
(事情のわかっていないAが説明を求める)
あ? お前らが仕組んでんだろ。さっきの病院からさ。
俺マジでビビってるからさ、もういいだろ。
(改めてAが説明を促す)
(しばらくAを疑うBと、落ち着かせようとするAのやりとりが続く)
…………お前が言ってた病院に肝試しに行ったんだよ。山ん中の廃墟の。
俺が車出してよ。
なあ、ホントに知らないのか? 嘘だろ?
わかった、わかったよ。
んで、一人ずつ中に入って、一階の一番奥の部屋まで行って戻って来るって話になったんだ。
俺が一番最後で。
先に行った連中が戻ってきて、俺の番になって。
――ああ、そうか。
先に行ったんだから、いくらでも仕掛ける時間はあったよな。
そうだそうだよ、やっぱりあいつら――
…………ああ、わるい。
俺の番になったからスマホのライト点けて中に入ったんだよ。
廊下は椅子とか観葉植物の鉢とかそのまんまで、ホコリも積もっててかなり汚かったけど、それだけだったな。
先に入った連中が「怖い怖い」って出てくるたびに脅かしてくるから逆に冷めてたのもあったし、廊下の突き当りに着くのも大して時間かからなくて、こんなもんかって拍子抜けした。
そしたら電話が鳴ったんだよ。
俺のスマホじゃなくて、すぐそばの部屋から聞こえるんだ。
誰かが落っことしたのかもしれないって、探しに行ってさ。
(深い呼吸音)
中は診察室だった。
手前に机と診察用のベッドがあって、正面は窓で外が見えてて。
部屋はL字型で右に折れて、角を曲がると壁に沿って機材を置く台や棚が並んでた。
スマホはその角の棚のそばに落ちてたんだ。
(深い呼吸音)
暗い中で画面が光ってるからすぐ見つかったよ。
拾おうとして屈んだんだけど、着信画面に、俺の、名前が出てて。
ほら、電話受けると、相手の名前が出るじゃんか。
でも、俺スマホ鳴らしてないんだよ。
わけわかんなくて固まってたらさ、いきなり声かけられたんだ。
ねぇ、って。
びっくりしてそっち向いたけど、壁なんだよ。
L字の角の部分だから、俺、壁と棚の横を見てる状態なんだけど、そこ変でさ。
棚が壁にくっつけられてなくて、拳一つ分くらいの隙間があって。
なんか、そこの隙間から声かけられた気がして、そん中にライト向けたら……
(荒い呼吸音)
そ、そしたらいたんだよ。人が。
わかんねえよ! いたんだよ!
棚と壁の隙間に、
人間の形をしたのが潰されたらこうなるんだろうなって感じに、
みっちりと人が隙間に詰まってたんだよ!
顔も半分つぶれてて、片目と口だけが見えてた。
目が合うと、そいつ、にたっと笑って近づいてきやがった。
俺、慌てて壁から離れて。
隙間からミイラみたいな細い手が出てきてスマホを掴んで引っ込んじまったんだ。
逃げたに決まってるだろ!
アイツが隙間から出てくるかもって思っただけで、頭おかしくなりそうだったんだぞ。
そしたら誰もいやがらねえ!
俺の車は残ってるのに。
置いてったんじゃねえよ!
仕方ねえだろ、こっちだって必死だったんだ!
大声で呼んだし、エンジンかけてクラクションも鳴らした。
それで出てこないんだったら、どうにかして帰ったと思うだろ!?
なあ、本当にいたずらじゃないんだよな?
お前らが、俺を驚かそうって仕組んでるんじゃないのか?
だってあの病院の肝試しの話持ってきたのお前だろ!?
隙間女とか、そんなのが出るとかよぉ!
んでお前が来てないって変じゃないか!?
一緒に言った連中とも連絡つかねえしさぁ!
なあ、頼むよ。冗談だって言ってくれよ。
さっきから変な電話がかかって来るんだよ。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇って番号から。
出たら女が嗤ってるんだ。
あの隙間にいヤツだ。
アイツが、
アイツが、
今、自分ちにいる。
でも、変なんだよ。
俺一人のはずなのに、そうじゃない気がするんだ。
気配がする。
見られてる、誰かに見られてる!
なあ、助けてくれよ。
頼むから、な――
黙れ、黙れ、
静かに、静かに。
(押し殺した息遣い)
何か、聞こえないか?
聞こえるよな?
(注記:Bの息遣い以外は聞こえなかった。ただ、音声を大きくしたらカリカリと何かをひっかくような音らしきものが混じっていたが、ノイズの可能性あり)
ひぃっ!
何だよアレ!
やばい、やばいって!
隙間から手が、アイツがいる!
(何かが床に落ちる音、ぶつかる音)
(人の倒れる音に続いて、ガンと激しい音が鳴る。おそらくスマホが床にぶつかった音と思われる)
助けて、助けて、助けて――
(悲鳴、引きずられる音)
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これ以降は上記の音がしばらく続き、ボキボキと不可解な(強いて言えば何本もの枝を踏み折るような)音があり、何も聞こえなくなった。
不審に思ったAがBのアパートを訪ねたが、Bはおらず、これ以降連絡もとれていない。
またBの言っていた電話番号は、彼らが肝試しに訪れていた病院の番号であり、現在は使われていないことをあわせて記しておく。
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