第20話 誰も知らない

 クラスメイトたちとI池という地元では有名な心霊スポットに行った。


 特に何か起こることもなく、なんとなく白けた雰囲気でみんなが帰ろうとした時、Kちゃんが池に落ちた。


 Kちゃんが池に落ちるのを見た女の子が「Kちゃんの脚に誰かがしがみついて引きずり込んだ」と言い出し、みんなは悲鳴をあげて逃げ出してしまった。


 私はバシャバシャと水しぶきを上げるKちゃんのもとへと駆け寄った。


 しかし、私が水際に近づくと、不意に水音が止んだ。


 Kちゃんが力尽きてしまったのかと焦ったが、そうではなかった。


 Kちゃんはすぐそこにいた。


 水面に顔だけがかろうじて浮かんで見えている。


 しかしその顔は血の気を失い、唇は灰色にくすみ死人のようだった。


 そのKちゃんの目だけがぎょろりと私を見つめ、にやりと笑った。


 瞬間、私は逃げ出した。


 背後から誰かの笑い声が響いていた。


 翌日、教室では昨日の肝試しの話題で持ちきりだった。


 Kちゃんの姿はない。


 さすがに薄情じゃないのかと憤ったが、その感情はすぐに冷えてしまった。


 みんなの会話に妙な違和感があった。


 漏れ聞こえる内容からだと、昨日のことと食い違っているのだ。


 私は窓際に集まっているグループに近寄って、話を聞いた。


 戸惑った。


 彼女たちは昨日はに行ったという。


 他の子たちも同じだった。


 私をからかっている様子もない。


 しかもH神社には私も一緒に行っていたらしい。


 クラスの誰に聞いても答えは同じだった。


 昨日、クラスのみんなでH神社に肝試しに行った。


 そこに私も参加していた。


 I池なんて行ってないし、そんな池は聞いたこともなければ、場所も知らない。


 そして、Kちゃんなんてクラスメイトはいないし、誰も知らない。

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