兄、弟に擬態する

シラタマイチカ

第1話兄、弟に擬態する

兄、弟に擬態する


だって、羨ましかった。







俺は色んな化け物食い過ぎて最早口裂け女の息子ですか?と尋ねられたら


「ハイ!口が裂けてるし間違いないですね!」としか答えられない

そのくらい色々なものが入り混じりめちゃくちゃになっていた。


一つ得意な事ができた。

化かす力がある化け物を食いまくった時に身につけた

擬態する力だ。コレはまぁバレたことはない。

町子や町子の養母にもバレてなかった

あれから色々役立つ事があり

これに関してはバレない強い自信があった。



◇◇◇◇

先日俺は弟を身体も心もボロボロにした。

奴が自殺もせず持ち直した理由は

自分をよしよしと受け入れてくれる彼女の存在があまりにデカく絶望に勝った。


俺の仕事を手伝う様になって朔は本当に壊れかけ

一歩手前で間違ったら俺は自分が殺されるのでは?と不安に思うくらいヤバかった。


元々はあちらの方が色々スペックは高いし

挙句向こうは知らないにしても悪食により色々なものがプラスされまくって居る

そして何より若い。若さには誰も勝てない



本当は自分の趣味もありもう少し痛めつけたい気もしたが辞めた流石の自分でもまだ殺されたくはない


朔を散々叱りつけてなんだが俺はもっとやらかしまくっていた。

りっちゃんにはゴムも付け大切にしていたが

りっちゃんに出会う前は酷かった。


大人は都合が悪いと大体自分の事は棚にあげる




朔夜はメンタルがやられ俺の言いなりになり

彼女に甘えて自分をギリギリ持っている危ない状態で。

計画通りに仕事を手伝わせる迄は達成したのだから

他はそっとしておくのが今は正解だと判断した。


が、しかしだ。


頭がお花畑の彼女とそれにべったりな朔夜を見ると

昔の自分が重なり

もしりっちゃんが生きていたらこんな感じだったのだろうか、あの時代の俺たちもどっかの誰かから見たらこんな風に見えていたのだろうかとか

考えてしまう。


思い出す事が多すぎて毎日自分の思い出上映会をされている気分だ




りっちゃんの事を町子ちゃんは寝たきりなだけで生きている、いつかおきると思っているみたいで

暇さえあればりっちゃんの顔や身体を拭いたり

話しかけたり横にぬいぐるみを持ってきてくれたりする

そいつ、死体なんだ…とは言えるわけも無い。

図書館で長年意識不明だった家族が○年後に目覚めた系エッセイとかを借りてきては読んだり俺に貸してくれた。

多分励ましのつもりなんだろうなと

ありがたく思うが。くどいが死体なんだ…


その光景を何度かみた朔夜は

俺の顔色を観察しては話を変えようとしていた


流石に怒らねーよ失礼な奴だな。


そもそも俺はこいつの養父になりすまして

散々最低な行為を繰り返した。処女を最低なやり方で奪った事も酷いかなとは思うけどそれ以上に怒鳴れば言いなりになるくらいには仕込んだ

今同じ家にいるのも冷静に考えたら色々おかしいのはわかってるが、ただ利用するには便利で

朔夜を使うためにはこの子を上手く使うしか無い

…。



◇◇◇



町子ちゃんは朔夜が身動き取れない間に

世話をまめにした、甲斐甲斐しく

沢山甘えさせて、癒やして。

そのおかげでなんとか朔は何かを乗り越えたみたいには見えた。



頭がお花畑だったり、

抜けてるくせに底無しの母性〜な部分とかりっちゃんによく似ている


朔夜がバイトで夜中留守にするようになった

俺たちはほぼ入れ替わりなので

お互い会話も以前ほどは無い。

町子ちゃんが眠って慌てて家を出るからから

その日は部屋のドアが開きっぱなしだった


そして人肌や優しさみたいなものに触れたい

甘えたい欲求が爆発していた俺は気付いた   

洗濯カゴから朔夜が脱ぎ捨てた部屋着を自室に持っていき


弟さっくんに擬態する事を実践してみた。

俺が朔夜に成りすましたら

問題ないのでは?1回くらい…1回くらいならいいよななんて。

この日は頭がどうかしていた。


外見だけ朔夜になった俺は若さにガッツポーズをした

「全然俺まだ行けんじゃん」なんなら朔夜の振りして色々やってやろうかとか頭に浮かんだりした。



りっちゃんは体温は微かにあるが

抱きしめてはくれない。かと言って他の女性を探すとかも選択肢としては無い

りっちゃんは自分の全てだ


ただ、10年の孤独は重くて

ただ一瞬手を握り返して貰えたり、5分くらい添い寝したりできたら何となく満足する気がした。


おそるおそる朔夜の部屋に入り

ベッドに腰掛けた。

すると寝ぼけた町子ちゃんは

俺を朔夜だと思ったのかしがみついてきた。

迷ったがそのままベッドに潜り込んだ

町子ちゃんは抱き枕を抱く様に寝ぼけて俺を抱きしめる


本当に懐かしい感覚だった。


10分くらいは多分目を閉じた。




無意識に秋夜は

自分の嫁にしていたみたいに額にキスをして部屋を出たが本人は気付いてはいない。


この10年の中で一番よく眠れた10分だった




◇◇◇


寝室に戻った俺はりっちゃんをずっと眺めた。

俺は多分一生りっちゃんを求め続けるし

このまま寂しさに蓋をして生きるしかないと気付いてしまった



「弟大切にしてね」


「兄弟かー、いいなあ…羨ましい」


「私に弟が出来るのね!嬉しい!」



りっちゃん君は喜んでくれたのに

本当にごめん

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兄、弟に擬態する シラタマイチカ @shiratama612

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