#物書きさんと繋がりたい
羽間慧
#向日葵を17文字以内で表現する
藤堂有紀@yukitoudou
#向日葵を17文字以内で表現する
元気そうだけど、支えがほしいときも
初めて有紀さんの言葉に触れたのはSNSだった。アイコンは白猫の写真。プロフィールには、小説家志望とだけ書かれている。
「藤堂有紀。性別も年齢も未詳か」
紛らわしいペンネームで活動しているお前が言うな。凛緖は心の中でツッコんだ。
「ま、俺は本名だけど」
初対面の人に名前を呼ばれるとき、いつも「りん……りおって読むの、これで?」と驚かれる。小学生のときは初見で読まれないことに涙ぐんだが、高校生にもなれば、珍しい名前ですよねと微笑むこともできる。もうろくした宮田の婆さんから「学のない親に名付けられて可哀想に」と会う度に同情され、最近は弁解することを諦めた。動く機械に力説しても無駄だと割り切れるくらいには大人になった。成長したぞ、俺。
「ビタミンカラーに元気をもらえる向日葵ですが、花の重さに耐えかねて倒れてしまうこともありますよね。支柱が必要な品種もある向日葵の特徴も、17音の中に閉じ込められていていいなって思いました」
スマホでコメントを入力していたが、読み直して小さく唸った。初めましての挨拶にしては長すぎるかもしれない。
「お兄ちゃん。宿題教えて!」
「どわっ! 背中に頭突きすんなって! いや、そもそもノックぐらいしろよ」
妹の真緒がスマホを覗き込む。俺は画面を下にして机に置いた。
「またゲーム? 違った、空想の世界でまどろんでいたの」
「スランプを詩的な言葉で表現するんじゃない」
「物書きのはしくれさんに、スランプ? 難儀なことですなぁ」
「そんな難しい言葉が分かるなら、数学の宿題くらいできるよな」
すみません、調子乗りましたと平謝りをする真緒。しおらしくしていれば、念願の彼氏ゲットも夢じゃないと思うのだが。
俺は真緒がぐちゃくちゃにした思考の糸をほどき、自分で解答できるように簡単な問いかけをしてやった。真緒の眉間のしわは緩み、俺の肩をバンバン叩く。
「さすがお兄ちゃん! これで明日のテストは完璧だよ」
付け焼き刃でいいのか。まぁ、平均点すれすれを求めているのなら、文句は言わない。二年後の高校受験で
元気よく部屋に戻る真緒を見届け、作業中だったスマホの画面を見る。
藤堂有紀@yukitoudou
凛緖さま、コメントありがとうございます。何度も書き直した17音を、褒めていただけて嬉しいです。
「ゆ、ゆうきさあああああん? 謙虚というか、健気というか。もう少し自信持ってもいいんですよ?」
あまりの返信の早さに過呼吸になる。
俺は机をなぞった。天城凛緖の死因、同業者の神対応。これで安らかに眠れる気がする。いや、まだ駄目だ。USBメモリに入っているネット小説を完成させないと、死んでも死にきれない。
「つーか、俺。有紀さんにコメントしてたっけ?」
最後にスマホの画面を見たのは、真緒に頭突きされる前。送信前に内容を確認していたときだ。
俺の顔から血の気が引いた。
「うわあああああああああ! やらかしたあああああああああ!」
大事にコメントしようと思ったのに。事故とはいえ、まとまっていない文章を有紀さんに見られたことが恥ずかしい。
「お兄ちゃん、やっぱり分かんない! もっかい教えて?」
「すまん、今は取り込み中」
飽きもせず、勢いよく開かれるドア。俺は机に突っ伏しながら右手を振る。真緒は、抜き足差し足忍び足という可愛らしい小声とともに退散していく。
俺は大きな溜息をつく。返信を取り下げたいが、本人が喜んでいるのなら削除しにくい。
唐突に、言葉の切れ端が全身に駆け抜ける。かつて伝えたい言葉が溢れていたころのように。俺は久々の感覚が消えないうちに形にした。
凛緖@hatennkou
#向日葵を17文字以内で表現する
眩しい笑顔を見つめ続ける
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