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女性同士の戦闘から少し離れると、ピースベイク、ディム、ライドが霧の兵士相手に剣を振るっていた。三人は仲間の様子を視界に捉えながら戦い、万が一の状況に備える。三人とも背後には注意を向けているが、視界に入れている仲間の方が自分の背後を確認しやすい。全員が同じ意識を持つことで、背後への警戒も万全だ。
さらにピースベイクの視界の端では、アルドレドがメイと剣を打ち合っている。ユウも近くに姿が見え、他の敵も彼女たちのまわりには確認できず、助太刀の必要はしばらく必要ないだろう。
あらかじめ決めていたわけではない。これは経験から成る動きと言っていい。三角の頂点となるように位置して、内面を向きながら戦う。経験豊富な彼らにとって、このくらいの事態は予想の範疇だ。
三人にとって気がかりなのは、ダズファイルの存在と無尽蔵な敵の量だった。
ダズファイルを殺せば敵は全員消えるのだろうか。確証がない今は、それを信じて戦うしかない。ただ殺しても霧の兵士たちの出現が止まなかった場合は、逃走経路を用意しなければならないだろう。閉ざされた空間から出る手段を考えなければならない。
ライドとピースベイクが目の前の敵から得物を弾いたのは全くの同時だった。いつの間にか距離が縮まっており、ひとまず二人は合流する。ディムは未だ剣を打ち合っているが、余裕のない表情ではなく、特に心配はないだろう。
「どーしますピクさん。二人の加勢に往くか、それともこのまま雑魚を相手にするか」
「……ギルドルグはどうした」
思い出したかのようにライドはあたりを見渡した。だが近くにはあの燃えるような髪の青年は見えない。
そういえばゼルフィユも、さらにはダズファイルの姿も見えない。雑魚を相手にしていたせいで気付かなかったが、敵の総大将が姿をくらまして何か起きないわけがない。何か仕掛けられているのか。
ライドは警戒を強めたが、新たな刺客が出現する気配も、ダズファイル自身の気配も感じられない。
しかしその影は、思ったよりも早く見つかった。
「あそこか」
ピースベイクが視界の端に何かを捉え、そちらの方に剣の切先を向ける。ライドの左側、ピースベイクの右側の先。松明の炎は勢いよく燃え上がり、その付近で人影らしきものがいくつも揺れている。剣の奏でる甲高い音が、耳を澄ませば聞こえてくる。
その瞬間、二人は察した。
「あー……ちょっとまずいですね」
ライドがやれやれとばかりに額の汗を拭い、ピースベイクは軽く舌打ちした。
つまりこういうことだ。
最初に霧厳山脈の王と相対したのは戦闘の熟練者たる警備軍ではなく、彼らから見れば初心者甚だしい男。
英雄の息子、ギルドルグ・アルグファストだった。
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