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「……アンタ、一体」

 ギルドルグは眉をひそめ、目の前の老翁を、かつての最上軍師を見やった。

「でねメルカイズさん。今日私たちが聞きたいのは、永遠の秘宝って何かってことなの」

 なかなか本題(あくまでこちらが聞きたい、である)に入らない気配を察したか、ユウはもどかしげに問う。

 メルカイズの明らかな強者の気配が感じられていないのか、それとも感じてなお空気を読んでいないだけなのか。何にせよハラハラものである。

「あくまで私が聞いたのは、もとい私が預かったのは、無限の魔力を秘めた宝石ということぐらいでな。存在するのか、存在したのか。過去なのか現在なのか、それとも未来なのか。それすらも曖昧だし、場所なんて以ての外。それを探すなんてことは全く時間と労力の無駄だと、私は思っておるよ」

 老人は一呼吸置き、続けた。

「だが、確かに私は預言した。その秘宝の名は、『ライオンハート』」

 ライオンハート。

 獅子の心臓。

 奇しくもこの国の紋章には獅子が入っており、気になるところではある。

 このエルハイム王国と、何らかのつながりがあるとでもいうのか。

「無限の魔力、ねぇ。そんなもん本当にあるのかな」

 あるのかな、とは言ってみるものの。ギルドルグはとてもじゃないが信じる気にはなれなかった。

 かつて何人もの高名な宝狩人が、秘宝と名高い魔法石に挑んでいる。その全ては、余すところなく採取された。ならば今回も何らかの手段を用いれば採取、最低でも場所の特定ぐらいは容易いことだろう。

 しかし場所の手掛かりは欠片もなく、存在している保証もない。あると保障するのは、この預言者以外にはいないのだ。彼を悪く言うつもりはないものの、預言だって外れるということぐらいあるはずだ。それが『神の言葉を預かる』などという空漠で朧ろげなものなら尚更だ。

「発見されようがされるまいが、この秘宝は世の中を変えている。現在も進行しているのだ。秘宝の毒は、今やこの国全体を覆うようにして広がっているだろう」

 妙なことを言うものだ、とギルドルグは感じた。この老人は、どことなく世の中を否定的に捉えるくせでもあるのだろうか――それも最上軍師の習性といったところか。先ほどから彼の言葉言葉に、深遠な意味が隠れているようにも感じられる。

 あるものに惹かれ、魅せられたものを憑りつかれたと表現することはあるが、その魅力を『毒』と表現するのはあまり聞かない。

 秘宝の、『毒』。最大の秘宝、その魅力か。

「ここ最近国土で起こっている異常気象。ライオンハートの預言。二つの点はやがて一つの線となる。……君たちに話したいことは、そのことに関係する事象だよ」

「前から私たちを呼んでいた理由ね。教えて」

 老人は長い長いため息をついた。世の中に疲れ切ったと、ほとほと嫌気がさしたとでも言いたげに。

 ややあって。老人は重い口を再び開く。

「私は預言してしまった。この国の滅びを」

 さて、ギルドルグ・アルグファストの人生におけるターニングポイントは、まさにこの予言を聞いたところであった。聞かなければ、彼はこの国の防衛に関わる戦いに巻き込まれずに済んだのかもしれない。これから起きていく物語の主人公になりえなかったのかもしれない。あくまで可能性だけの話ではあるが。

 ただ間違いなく、一般人として生きてきた彼の人生が、この国の存亡を賭けたものへとシフトしたのはこの瞬間であった。

 宝狩人、異能の少女、謎の少年。

 この交わりようもない三人が交わり、ともに歩む物語は確かに、ここから始まった。

 しかしまだ一介の宝狩人でしかないギルドルグは、そんなことを知る由もなかったのである。

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