ライオンハート

紅夜蒼星

プロローグ、これまでの章のまとめ

零章 【才能】

 才能がある奴は地獄に落ちろ。


 才能のある奴にまともな奴はいない。

 才能しかない奴に正気の奴はいない。

 自らを特別と感じずに、他の連中が何故できないかなんて考えることもしない。

 自らを天才と気付かずに、他の連中がどうしてやらないかなんて分かるはずもない。

 才能がないからできないというのに。

 才能がないからやらないというのに。

 どれほど血筋がよかろうと、才能を受け継がない奴はいる。

 どれほど家系が悪かろうと、才能を発揮する奴はいる。

 結局のところ、この世界はそんな天才たちが作り上げた虚構の世界に過ぎない。

 本当の世界は、天才という一括りから漏れてしまった一般人たちの世界だというのに。

 だから俺は正直なところ、この世界を好きにはなれない。

 偉大なる親父が死に、愛すべき母親を失った俺に、そんな世界では何の役割も残っちゃいない。

 人が何か役割をもって生まれてくるのだとしたら、俺はおそらく、何の役割も与えられなかった路傍の草なのだ。

 もしくは役割を持っていると『思い込んで』いる、道化師という役割なのかもしれない。

 哀れなる道化師に、世界を変えるだの、世界を救うだの、そんな大それた真似が出来うるはずがない。

 それはそれこそ、天才たちだけで解決すべき問題だ。

 俺は道理とは違う魔法を使えたりはしない。

 突如として獣に変貌し、その剛力を振るったりはしない。

 片目が見えなくとも、普通の人以上の剣さばきでそれを補えたりはしない。

 そして強大な能力で他国を脅かすなど、出来ようはずがない。

 俺のような一般人に出来ることは、努力することだけだ。

 その努力をもって天才たちを凌駕することを夢見ることだけだ。

 例えば何の努力もせず、転生して才を得るなど、この世の摂理に反している。全くもって噴飯ものだ。

 努力以外で、才を得る方法など存在しない。

 それは自分自身の日々の努力で、日々の研鑽で証明してきたことだ。

 だが、天才たちは日々大いなる一歩を進む。

 俺のように小さな一歩では、一生、到底、追いつこうはずもない。

 どうすればいいのだ。

 才能がない人間が、日々を積み重ねる天才たちに、一体どうすれば追いつけるというのだろう。

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