鬼灯姫

@kahaya0524

鬼灯姫

苦しんだ末世に生まれ落ちた子はやっとの思いで空気を吸い込んだ。やっと命にありついた子は真っ赤な頬から鬼灯に例えてホオズキと名付けられた。どこにでもいる普通の女の子は普通に育った。


物心が着いた頃には親は不仲であった。母が父を罵倒しているところ、ある日には食事中に喧嘩を初め父にいかった母は、持っていたお酒を父にかけた。小さい子ながら心が痛くなった。父の顔を見ることが出来ず、母にかける言葉も見つからなかった。


私が中学に上がると母は離婚すると常に言っていた、思春期の私は何も言わない。

しないでほしい。

そう言えばいいのに。家族で食事をすることはいつの間にか無くなっているのも忘れた。学校では笑顔の私だ。輝く場所にいるように振舞った。それが普通であって欲しいと願いながら過ごしたに違いない。

高校生になった。ついに母は離婚した。別に離婚に関して何も思わなかったが、高校進学を理由に私と母の2人で暮らすことになり都合にされた気がした。我ながらこの年でこの顔の仕上がりは素晴らしいと思うほどにモテた。これまでに数人の男を虜にしたがこんな生い立ち見せてたまるかと思い断り続けた。

それでも私も人間で人を好きになる。後ろに座る男の人が気になり私から声をかけた。満更でもなさそうなその人はなんでも話してくれる。昔のことやどうでもいいことも。次第に向こうから声をかけてくれるようになり私たちは付き合った。学校が終わり彼と遊びに行く、そして彼の家にお邪魔して何をしたか分からない時間を過ごす日々があった。家には帰らない。私はもうこっちの人間でいたいのだ。本当の私はこっちの方なのだと思った。


母が知らない男性を連れてきた。嬉しそうに普段私に聞かせる声とは別の声でその男性を紹介された。

「お付き合いさせてもらってる人」

私は心の底から嫌悪を感じた。もう、この人たちとはいたくない、と。

しかし私は演じた。

「よろしくお願いします」

上手く言えた。本当に思ったの?思ってない。

その男性に母と似てると言われた時も可愛らしくていいねと言われた時もちっとも嬉しくならなかったし、可愛らしい自分を初めて恨んだ。


その日以降もいつものように私は彼の家に行った。つまらなそうにしていた彼は開口一番

「別れてくれ」と。

私はついてない。良くないことは畳み掛けるようにやってくると誰かが言ったが本当だ。好きな人が出来たそうで、どうしてかすぐにわかった、と返事をして彼の家を出た。彼を恨んじゃいない。私のせいだ。私の全てどころか何も見せていない。


じゃあ誰のせい?


みんな正直だ、なんでも言ってくれる。そんなに私が信用できる人なのか。あの人もあの人も、彼だって私に沢山話してくれた、楽しそうに、嬉しそうに、悲しそうに、苦しそうに、、

私も生まれた時は苦しかったのに、今は何も感じない。涙も出ないで道を歩けているのだから不思議だ。

真っ白な頬をホオズキは叩いた。赤く腫れ上がるまで何度も何度も叩いた。それでもホオズキはただ歩いた。

「どこ言ってんだろう」


茜色の空が暗闇になろうとする。彼女は自らを偽り、全てを偽ったことを悟り、帰路につかず沈み終わる夕日に向かい足を歩ませ。車に轢かれ死ぬ。

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